不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

 そうしてトレとネージュさんの案内で、不気味に静まり返った戦場を歩く。スリジエさんは見えずの霧を広げて、わたしたち全員を包み込んでくれていた。かなり疲れるらしいのだけれど、今は非常事態だからと快く力を貸してくれた。

 それでも、やはり落ち着かなかった。どこかに、敵国の兵士がいるんじゃないか。わたしたちを見つけて、襲ってくるんじゃないか。そう思わずにはいられなかったから。

 歩くにつれ目につくのは、たくさんの人間に踏み荒らされた地面、あちこちに落ちている何かの破片。時々、滴り落ちた血の跡のようなものも見かけた。

 ここは、元はごくありふれた緑豊かな草原だったのだろう。でも今ではすっかり荒れ果てて、寒々しく恐ろしい姿を見せていた。

「ヴィンセント様、大丈夫かな……」

 そんなわたしのつぶやきにも、返事はなかった。みんな緊張した顔で、辺りを見渡している。

 震える足を懸命に踏み出して、前に進む。きっとこの先にヴィンセント様がいる、絶対に見つけてみせると意気込みながら。そうでもしないと、絶望で崩れ落ちてしまいそうだった。

 すると突然、異様な光景が姿を現した。地面が大きくえぐれ、辺り一面に土が飛び散っている。近くにある大きな岩が割れて、真新しい断面を見せていた。

 めちゃくちゃになっているその一帯で、トレとネージュさんが立ち止まる。

『ここ、匂い一番強い』

『そうだな。……爆発か何かあったようだが、ここにあいつがいたのは間違いないな』

「そんな、それじゃヴィンセント様は!」

 思わずネージュさんの胸毛をひっつかみ、問いただしていた。そんなわたしの頭の上で、フラッフィーズが心配そうにぴいぴい鳴いている。

『落ち着くのじゃ。多少血の匂いはするが、これくらいでは人は死なぬ。もしあやつが爆発に巻き込まれたのだとしても、生きておるじゃろう。嘆くには早い』

 ゆっくり深呼吸して気持ちを落ち着かせようとする。しかしその時、落ちていたものに目が留まる。

「これ……ヴィンセント様のお守り……わたしが作った……」

 布を折って縫った、小さな布の花飾り。土に半ばほど埋もれたそれは、ちぎれてぼろぼろになっていた。そろそろと手に取り、呆然と眺める。

「やっぱり、ヴィンセント様はここに……でもそれなら、今はどこにいるの……?」

『生きてる。探そう』

 泣きそうになるわたしの足に、トレが顔をすりつける。

『トレの言う通りだ。いないのなら、探せばいい。少し待っていろ、今匂いをたどってやる』

 ネージュさんがお守りに鼻を寄せて、それから地面に鼻をつける。犬そっくりのその仕草が、今はとても頼もしく思えた。