不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

 それからの空の旅は、とても大変なものだった。スリジエさんが急ぎに急いでいたこともあって、乗り心地は最悪、しかも肝が冷えるようなものすごい速度での移動になったのだ。

 前にスリジエさんに乗った時は、手綱もくらもなかった。誇り高い彼女は、そんなものを使うことを断固として受けつけなかったのだ。

 けれど今回は急ぎなので、彼女は自分からそれらの馬具を身に着けると言い出した。

 彼女らしくない発言だなあと思っていたけれど、こうして実際に飛び出してみて、彼女がそう言った理由がよく分かった。馬具がなければ、とっくの昔に振り落とされている。というか、馬具があっても苦しい。

『スリジエ、少し速度を落とせ! おれはともかく、エリカが落ちたらまずい!』

「だ、だいじょうぶ、です……どうか、急いでください。一刻も早く、ヴィンセント様のところへ」

 くらにしっかりとしがみついていても、少しでも気を抜いたら猛烈な風に吹き飛ばされてしまいそうになる。手がこわばってきた。

 わたしとくらの間には、子犬くらいの大きさになったネージュさんが伏せている。そしてわたしの服の中には、フラッフィーズが二羽もぐりこんでいる。いつも通りのぴよぴよという声が、わたしを励ましてくれているように思えた。

 しばらく飛んで、少し休憩する。それを繰り返しているうちに、目的地である戦場らしき場所にたどり着いた。

 そろそろ日が傾き始めていたけれど、まだ日が暮れるまでには時間がありそうだった。屋敷を発ったのが昼過ぎだということを思えば、破格の早さだった。必死に耐えたかいがあった。

『あ、みんなきた。早かった』

 地面に降り立ったとたん、かたわらの草地からにょっきりとトレが生えてくる。

『どうだった、トレ?』

『このへん、今は静か。でもあっちのほう、こないだまで戦ってたみたい。地面、ぼろぼろ』

 辺りには人の気配がない。でもしっかりと警戒しながら、トレの話に耳を傾ける。

『この辺ずっと、ヴィンセントの匂いしてる。匂いいっぱいで、どこにいるか分からない。でもあっち、ちょっとだけ匂いが強い、かも』

『……ああ、確かにそうだ。あっちから、あいつの匂いがする。間違いない』

 幻獣たちはみんな、ヴィンセント様からいい匂いがすると言っている。この中では一番鼻のきくネージュさんが首を伸ばして、わたしには分からないその匂いをかいでいた。

『見える範囲に、あやつはおらぬがのう。というか、そもそも人がおらぬわ』

 こちらはスリジエさんだ。彼女はいつも高い空を飛んでいるからか、とても目がいいのだ。

「ひとまず、匂いが強いほうに行ってみましょう」