執事にはひとまず口止めして、屋敷に戻ってもらった。
このことが屋敷の使用人たちに知られたら、きっとみんな動揺するだろう。これからどうなるか分からないのだし、みんなにはいつも通りでいて欲しい。
執事の姿が消えると同時に、わたしはその場に崩れ落ちた。自分自身をしっかりと抱きしめたけれど、震えはちっとも止まらない。
「どうしよう……ヴィンセント様が、ヴィンセント様が……」
涙が勝手にあふれて落ちていく。怖い。嫌だ。認めたくない。そんなことをうわごとのようにつぶやきながら、ひとりで震えていた。
と、急に目の前が白くなる。どうやらネージュさんが、その長くふわふわの毛をわたしにかけてきたようだった。
気がつくと足のところにトレがすりよっていたし、目の前の地面にはフラッフィーズがずらりと並んでこちらを見上げていた。必死にぴよぴよと鳴いて、わたしの気を引こうと頑張っている。その向こうには、スリジエさんの桜色の鼻面が見えていた。
「……みんな……」
『泣く、怖い、ダメ。このまま、もっとダメ。スリジエ、ネージュ。行こう。トレたちの出番』
『仕方あるまい。こうなったら、わらわたちも腹をくくるかの。危険は承知の上じゃな』
『あいつがいなくなったら、おれたちも面白くない。よし、やってやるか』
話についていけなくてぽかんとしていると、ネージュさんがこちらに向き直ってにやりと笑った。
『おれたち幻獣は、本来人間とあまり関わらない。そういう生き物なんだ』
『人の子より遥かに長い時間を生き、まるで違う優れた力を持つゆえにな。何もかもが、あまりにも違いすぎるのじゃ』
『ヒト、せわしない。トレ、もっとのんびりが好き』
いつもと同じ調子で、三人がわいわいと言い立て始める。やがてネージュさんが、ゆったりと言葉を続けた。
『だがそんなおれたちも、おまえたちと出会って変わってしまった。おまえたちの時間に、おまえたちの決まりに縛られて動くのも、案外面白いものだと思うようになってしまったんだ』
『特に、お主ら夫婦は見ていて飽きぬ』
『またみんなで、のんびりしたい。だから、トレたち頑張る』
『あいつが行方不明だっていうなら、探せばいい。おれたちが力を合わせれば、不可能ではない』
頼もしいネージュさんの言葉に、また一粒涙がころんと落ちる。けれどもう、さっきまでの絶望は薄れ始めていた。
みんながいれば、きっとヴィンセント様を見つけられる。そうしてみんなで、またここに戻ってくるんだ。
わたしの心に差したかすかな希望は、ゆっくりとふくれあがっていった。
このことが屋敷の使用人たちに知られたら、きっとみんな動揺するだろう。これからどうなるか分からないのだし、みんなにはいつも通りでいて欲しい。
執事の姿が消えると同時に、わたしはその場に崩れ落ちた。自分自身をしっかりと抱きしめたけれど、震えはちっとも止まらない。
「どうしよう……ヴィンセント様が、ヴィンセント様が……」
涙が勝手にあふれて落ちていく。怖い。嫌だ。認めたくない。そんなことをうわごとのようにつぶやきながら、ひとりで震えていた。
と、急に目の前が白くなる。どうやらネージュさんが、その長くふわふわの毛をわたしにかけてきたようだった。
気がつくと足のところにトレがすりよっていたし、目の前の地面にはフラッフィーズがずらりと並んでこちらを見上げていた。必死にぴよぴよと鳴いて、わたしの気を引こうと頑張っている。その向こうには、スリジエさんの桜色の鼻面が見えていた。
「……みんな……」
『泣く、怖い、ダメ。このまま、もっとダメ。スリジエ、ネージュ。行こう。トレたちの出番』
『仕方あるまい。こうなったら、わらわたちも腹をくくるかの。危険は承知の上じゃな』
『あいつがいなくなったら、おれたちも面白くない。よし、やってやるか』
話についていけなくてぽかんとしていると、ネージュさんがこちらに向き直ってにやりと笑った。
『おれたち幻獣は、本来人間とあまり関わらない。そういう生き物なんだ』
『人の子より遥かに長い時間を生き、まるで違う優れた力を持つゆえにな。何もかもが、あまりにも違いすぎるのじゃ』
『ヒト、せわしない。トレ、もっとのんびりが好き』
いつもと同じ調子で、三人がわいわいと言い立て始める。やがてネージュさんが、ゆったりと言葉を続けた。
『だがそんなおれたちも、おまえたちと出会って変わってしまった。おまえたちの時間に、おまえたちの決まりに縛られて動くのも、案外面白いものだと思うようになってしまったんだ』
『特に、お主ら夫婦は見ていて飽きぬ』
『またみんなで、のんびりしたい。だから、トレたち頑張る』
『あいつが行方不明だっていうなら、探せばいい。おれたちが力を合わせれば、不可能ではない』
頼もしいネージュさんの言葉に、また一粒涙がころんと落ちる。けれどもう、さっきまでの絶望は薄れ始めていた。
みんながいれば、きっとヴィンセント様を見つけられる。そうしてみんなで、またここに戻ってくるんだ。
わたしの心に差したかすかな希望は、ゆっくりとふくれあがっていった。

