「ヴィンセント様は、きっと寂しかったんじゃないのかなって、そうも思うんです。だからわたしでよければ、そばにいます。いえ、いさせてください」
そうささやきながら、彼を真正面から見つめる。その耳には、金色のピアスが輝いたままだ。
わたしがここに嫁いでくるよりも前から、ヴィンセント様はネージュさん相手に愚痴をこぼしていたらしい。
そしてこのピアスのおかげでネージュさんと話せた時、ヴィンセント様は大いに驚いていた。というか、戸惑っていた。けれどヴィンセント様はあれからずっと、ピアスをつけたままだ。
ヴィンセント様は、ネージュさんのことを親しく思っている。
きっとヴィンセント様にとって、人間よりもずっと強く、生命力にあふれた幻獣である彼は、人間以上に安心できる相手だったのだろう。
ネージュさん、当時は雪狼と呼ばれていた彼なら、ヴィンセント様を置いて死んだりはしないから。ネージュさんが突然姿を消したとしても、獣であれば仕方ないと自分に言い聞かせることもできるから。
それに、人と話せない彼なら、口さがない噂をまき散らしたりはしないから。
きっとネージュさんは、ヴィンセント様の数少ない理解者だった。そう思ったら、とってもうらやましくなってしまった。
「……わたしも、あなたの理解者になりたいなあ……」
ついうっかりそんなことをつぶやいてしまって、しまったと口を押さえる。今まで黙っていたヴィンセント様が、吐息だけで小さく笑った。
「つくづく君は、不思議なことを考えるのだな。理解者とは、いったいどういう意味だろうか?」
「あ、ええと……ヴィンセント様の愚痴を聞けるくらいの間柄になりたいなって、それくらい信頼されたいなって」
どう答えていいのか迷ったあげく、思ったままをざっくりと話す。ヴィンセント様は目を真ん丸にして、それから背を丸めて笑い出した。おかしくてたまらないという顔だ。
「そんなもの、聞いても面白くはないぞ」
「でも愚痴って、ヴィンセント様の困っていることや、苦しんでいることですから。それを知ることができたら、もっとヴィンセント様の力になれるかなって思って」
真面目にそう答えると、ヴィンセント様はひどく優しい目でわたしを見つめた。
それからするりと流れるような動きで立ち上がり、わたしをしっかりと抱きしめてしまう。
「俺の力になりたいと、どうして君がそうかたくなに主張するのか、俺には分からない。だが……君の懸命な思いは、とても嬉しい。ありがとう」
彼がどんな顔をしているのかは分からない。けれど、その声はとても温かく、穏やかだった。
そのまま彼に寄り添って、彼の体温だけを感じる。彼もわたしを抱きしめたまま、じっとしていた。
部屋の中はとても静かだったけれど、その静けささえも心地良いと思えた。
そうささやきながら、彼を真正面から見つめる。その耳には、金色のピアスが輝いたままだ。
わたしがここに嫁いでくるよりも前から、ヴィンセント様はネージュさん相手に愚痴をこぼしていたらしい。
そしてこのピアスのおかげでネージュさんと話せた時、ヴィンセント様は大いに驚いていた。というか、戸惑っていた。けれどヴィンセント様はあれからずっと、ピアスをつけたままだ。
ヴィンセント様は、ネージュさんのことを親しく思っている。
きっとヴィンセント様にとって、人間よりもずっと強く、生命力にあふれた幻獣である彼は、人間以上に安心できる相手だったのだろう。
ネージュさん、当時は雪狼と呼ばれていた彼なら、ヴィンセント様を置いて死んだりはしないから。ネージュさんが突然姿を消したとしても、獣であれば仕方ないと自分に言い聞かせることもできるから。
それに、人と話せない彼なら、口さがない噂をまき散らしたりはしないから。
きっとネージュさんは、ヴィンセント様の数少ない理解者だった。そう思ったら、とってもうらやましくなってしまった。
「……わたしも、あなたの理解者になりたいなあ……」
ついうっかりそんなことをつぶやいてしまって、しまったと口を押さえる。今まで黙っていたヴィンセント様が、吐息だけで小さく笑った。
「つくづく君は、不思議なことを考えるのだな。理解者とは、いったいどういう意味だろうか?」
「あ、ええと……ヴィンセント様の愚痴を聞けるくらいの間柄になりたいなって、それくらい信頼されたいなって」
どう答えていいのか迷ったあげく、思ったままをざっくりと話す。ヴィンセント様は目を真ん丸にして、それから背を丸めて笑い出した。おかしくてたまらないという顔だ。
「そんなもの、聞いても面白くはないぞ」
「でも愚痴って、ヴィンセント様の困っていることや、苦しんでいることですから。それを知ることができたら、もっとヴィンセント様の力になれるかなって思って」
真面目にそう答えると、ヴィンセント様はひどく優しい目でわたしを見つめた。
それからするりと流れるような動きで立ち上がり、わたしをしっかりと抱きしめてしまう。
「俺の力になりたいと、どうして君がそうかたくなに主張するのか、俺には分からない。だが……君の懸命な思いは、とても嬉しい。ありがとう」
彼がどんな顔をしているのかは分からない。けれど、その声はとても温かく、穏やかだった。
そのまま彼に寄り添って、彼の体温だけを感じる。彼もわたしを抱きしめたまま、じっとしていた。
部屋の中はとても静かだったけれど、その静けささえも心地良いと思えた。

