不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

「……だが、そうやって俺のそばにいることで、君は家族や友人と疎遠になってしまうかもしれない」

「いいんです。確かに、いつかはみんなにもヴィンセント様のことを分かってほしいとは思います。でも今のわたしは、どちらかしか選べないんです。だったら、わたしはヴィンセント様を選びます」

 きっぱりと言い切ると、ヴィンセント様は目を伏せて、ゆっくりと息を吐いた。

「そうか。君は強くなったな」

 思いもかけない一言に、目を見開く。

「ここに来たばかりの頃は、俺の言葉にただ戸惑い、うろたえているだけだったのに。何が何でも離縁してやらなくてはと、そう思ってしまうくらいに弱々しかった」

「わたしが強いというのなら、それはヴィンセント様のおかげです」

「俺の?」

「はい。あなたに近づきたい、あなたのことを知りたい、あなたのことを支えたい。そんな思いがあるから、わたしは前を向けるんです」

 しかしわたしが一生懸命思いを告げれば告げるほど、ヴィンセント様の表情は暗くなっていく。

「……前に、ずっと俺は一人で生きていたといっただろう。あれは、自分でそうあることを選んだ結果だ」

 不意に、ヴィンセント様が口を開いた。突然どうしたのだろう、と思いながら、耳を傾ける。

「俺は十三で母を亡くし、天涯孤独になった。生きていくために、軍に入った。……そうして、戦いの中でたくさんの友を、仲間を失ってきた」

 ヴィンセント様の声には、何の感情も浮かんでいなかった。でもだからこそ、彼の苦しみがひしひしと伝わってくるような、そんな気がした。

「誰かと近しくなったところで、いずれいなくなる。あるいは、いなくなるのは俺のほうかもしれない。だから俺は、一人でいることにした。……まあ、ブラッドは俺の思惑などお構いなしに、強引に近づいてきたんだが」

 その言葉に、うっかり笑いそうになる。あのブラッドさんなら、ヴィンセント様の拒絶を乗り越えて強引に近づいて強引に友達になるくらい、確かにやりそうだ。

 笑いをこらえてうつむきながら、そっと微笑む。ブラッドさんがいてくれてよかった。そう思いながら。

 大切な誰かを失うことのないように、自分を失う苦しみを誰かが味わうことのないように、自ら進んで一人になった、優しいヴィンセント様。そんな彼が本当に一人にならなくて、よかった。

「俺はそうやって一人、閉じこもった。そうでもしなければ、自分を守れなかった。……俺は弱いな」

「そんなことはありません」

 ぱっと顔を上げて、すぐさま口を挟む。

「それは、ヴィンセント様が弱いからではなくて、優しいからです」

 自信たっぷりに断言すると、ヴィンセント様はのろのろとわたしを見た。

「一人で生きると決めたヴィンセント様は、こうしてわたしを受け入れてくれました。自分を守ることよりも、わたしの望みをかなえることを選んでくれました。ヴィンセント様は優しくて、強いです」

 頑張って言葉を重ねているのに、どうにも、うまく思いが伝わっていないような気がする。もどかしくてたまらない。

 気がつけば、立ち上がっていた。そのままヴィンセント様に歩み寄る。

「……ヴィンセント様が戦いにいってしまった時、とても怖かったです。でも、その怖さを、ネージュさんたちが和らげてくれました。そんな風に、わたしもヴィンセント様の力になれたらいいなって、そう思います」

 ためらいながら手を伸ばし、ヴィンセント様の手に触れた。ヴィンセント様は一瞬びくりと肩を震わせたけれど、それだけだった。

 両手でしっかりとヴィンセント様の手をにぎって、自分のほうに引き寄せる。それから、その手にそっと頬を寄せた。