不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

 かすかに震えた自分の声が、やけに遠くから聞こえる。

「あの屋敷は、化け物屋敷なんかじゃありません。わたしの大切な人が暮らす、大切な場所です」

「でも、だったらどうしてそんな噂が立ってしまったの? それにヴィンセント様だって、秘密だらけの怖い人じゃない」

 友人の一人が、視線をさまよわせながら口を挟む。彼女をまっすぐに見つめて、さらに言葉を続けた。

「噂は噂。わたしは、自分の目で見たものを信じるわ。ヴィンセント様は寡黙で誤解されがちだけど、とっても優しくて素敵な方なんだから。これ以上ヴィンセント様のことを悪く言わないで」

 わたしの気迫にのまれたのか、みんな神妙な顔をして口をつぐむ。もう一度大きく息を吸って、畳みかけた。

「わたしは今、とっても幸せなの。誰がなんと言おうと、その事実は変わらないの」

 ヴィンセント様はずっと、こんな噂と視線に一人で耐えていたのだ。でも、何があろうと、わたしは彼の味方だ。彼が怒らないなら、わたしが代わりに怒る。

 そんな決意を新たにしながら、震える両手をぐっとにぎりしめていた。



 結局、実家には一泊だけしてすぐに戻ることにした。

 ここにいたら、いつの間にやら離縁させられていたなんてことになるかもしれない。そう思ったら、一刻も早くここから離れたくてたまらなかったのだ。

 両親はとても複雑な顔をしていた。それも当然だ。だって、わたしがあそこまではっきりと両親に逆らったのは、生まれて初めてなのだから。

 何か言いたそうにしている両親にさっさと別れを告げて、大急ぎで馬車に飛び乗った。それこそ、逃げるようにして。

 そうして予定よりずっと早く戻ってきたわたしを見て、ヴィンセント様は目を丸くしていた。

「……おかえり、エリカ。ずいぶんと早かったな。積もる話もあるだろうから、しばらく戻ってこないかもしれないと思っていたが」

 その声を聞いていたら、なぜか急に涙があふれてきた。

「ど、どうしたんだ、大丈夫か」

「ただいま、戻りました。やっとヴィンセント様の声が聞けて、それで嬉しくて」

 ヴィンセント様はかなり戸惑っているようだったけれど、それでも泣きじゃくるわたしをそっと抱き寄せてくれた。

「……ならば、好きなだけ泣くといい。俺でよければ、そばにいるが」

「ヴィンセント様にそばにいてほしいです。ヴィンセント様がいいです」

 そう答えて、ヴィンセント様の胸に額を当てる。懐かしい、優しい香りがする。

 結局わたしは、その後しばらくヴィンセント様に寄りかかったままでいた。彼に甘えられる幸せを、かみしめながら。