不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

「あれ、幻獣じゃないのかな……?」

 首をかしげていると、そのヒヨコはぴょんと跳ねて、そのまま空中をゆっくりと進み始めた。どう考えても飛べそうにない小さな翼で、ぱたぱたと羽ばたいて。

「やっぱり可愛い……じゃなかった、どこに行くの?」

 そのヒヨコは入り口の扉に向かって飛んでいき、そのまま扉に吸い込まれるようにして消えた。びっくりしてベッドを飛び降りて、後を追いかける。

 廊下に出てすぐに、なおもゆっくりと飛んでいるヒヨコを見かけた。さっきの様子からすると壁くらい突き抜けられそうなのに、律義に廊下を進んでいる。

 どこに行こうとしているのだろう。ヒヨコに続いて進んでいると、足元に小さな影が見えた。

 飛んでいるヒヨコとそっくりなヒヨコが、わたしの足元を歩いている。しかも次第に、数を増やしていた。突然空中からわき出るようにして、ヒヨコが次々と姿を現していたのだ。

 まだ薄暗い廊下を、青い小さなヒヨコが群れになって突き進む。それはとっても不思議で、そしてわくわくする光景だった。ヒヨコを踏まないように気をつけながら、一緒になって歩き続ける。

 この子たちがどこに行こうとしているのか、心当たりはあった。まっすぐ進んで、突き当たりを右に、さらにまっすぐ。

 そこにある扉に、ヒヨコたちは体当たりしていく。やはり吸い込まれるようにして、その小さな姿が次々と消えていった。

 一つ深呼吸して、扉をノックする。

「ヴィンセント様、起きてますか? その、青いヒヨコが……」

 その言葉に返ってきたのはうめき声。驚いて扉を開け、中に入る。

「ああ、エリカ……どうしたものだろうな、これは。話も通じないし」

 そこには、青いヒヨコの群れに半ば埋まったヴィンセント様がいた。ベッドの上で、上体だけを起こしたまま。

 ヒヨコたちはぴよぴよ鳴きながら、ヴィンセント様の頭や肩の上によじ登り、くつろいでいる。

「わたしも、この子たちとは話ができないんです」

「そうか。ひとまず、ネージュたちにも見てもらうしかないだろうな。しかしこのヒヨコをつぶさないように動くのは、骨が折れそうだ」

「わたし、手伝います」

 それからわたしはヴィンセント様にまとわりついているヒヨコたちを引っぺがし、その隙にヴィンセント様は寝間着から普段着に着替えた。

 もちろん、着替えの間わたしはヴィンセント様に背中を向けていた。夫婦だから見てもいいとは思うのだけれど、やっぱり恥ずかしい。

 それから、今度はわたしが自室に戻って身支度を整えた。

 そうしてわたしたちは、さらに数を増しているヒヨコの群れを引き連れて、屋敷の裏手の森に向かっていったのだった。