不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

「もしかして、そのせいで帰りが遅くなったんですか?」

「実は、そうなんだ。あまりに急なことで、君に連絡することができずに……すまなかった」

 そうだったんですか、と答えながら、ほっと胸をなでおろす。ヴィンセント様が苦戦したのではなくて、本当に良かった。

「ところで、陛下の命というのは……?」

「……困りごとはないか、と聞かれた」

 どちらかというとその陛下の言葉に困らされたのだと言わんばかりの顔で、ヴィンセント様は答える。

「妻の前では言いづらいこともあるだろうと、わざわざ俺が一人で屋敷を離れた時を狙って、陛下は俺を呼ばれたらしい」

「あの……何て答えたのか、知りたいなあって……駄目ですか?」

 興味半分、怖さ半分でそう尋ねると、ヴィンセント様は照れくさそうに笑った。

「俺はとても良い妻を得ることができました。どうすれば彼女に報いることができるのか分からないのが、目下の悩みです。そう答えた」

 その言葉に、一気に顔に血が上る。わたし、今真っ赤になっている気がする。

「陛下は、そのままお主の思うようにやってみるがいい、とおっしゃった。そのせいで、余計に困ってしまったが……」

「もしかしてそれが、昨夜の問いにつながったのですか? 自分はどうしたらいいのか、という」

 ふと思ったことを尋ねると、ヴィンセント様は気まずそうに目をそらしてしまった。ちょっぴり顔が赤い。一つ咳払いをすると、彼は強引に話を引き戻した。

「と、ともかく。このピアスは、その時に褒美としていただいたものだ。ちょっとした魔法が込められているのだが、それについては後で話す」

「はい、楽しみにしておきますね」

 今のこの国に、魔法はない。少なくともわたしが知る限り、魔法を使える人はいない。けれどかつて魔法は確かに存在していたらしく、魔法が込められた品があちこちに残っているのだ。

 ヴィンセント様のピアスを見ながら、あれこれと考えてみる。

 いったいどんな効果があるのだろう。早く知りたい。ネージュさんたちも驚くかな。そして何より、あのピアスはヴィンセント様によく似合っている。

 そんな考えにふけっているうちに、いつの間にか朝食を食べ終えていた。



 それから中庭に出て、思い思いの場所でごろごろしていたネージュさんたちを一か所に集める。

『なんだ、どうした? 改めておれたちを集めるなんて』

『面白いことが起こりそうな予感じゃ』

『トレに用事?』

 いつも通りにわいわいと騒いでいる三人を見つめて、ヴィンセント様はただ立ち尽くしている。気のせいか、その肩がこわばっているような。

『ん? 珍しいな、耳飾りなんてつけて。……その気配、それは魔法の品か。どういう魔法だ?』

『ほう、やはり面白いことになっておるのう。ほれ、はよう説明するがよい』

『不思議? 不思議? 何々?』

 それでもやはり、ヴィンセント様は全く動かない。いつもとあまりにも違う様子に、心配になって声をかけた。

「あの、ヴィンセント様……どうかしましたか?」

「本当に……聞こえる……彼らの言葉が、分かる……」

 その言葉に、ネージュさんたちが一斉にヴィンセント様を見た。