不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

「ヴィンセント様が帰りたいと思ってくれた、そのことがとっても嬉しいです。待ったかいがありました」

 彼の顔に、ゆっくりと驚きの表情が浮かんでいく。

「だからどうか、今まで通りに過ごさせてください。ちょっと辛いこともありますけど、でもやっぱり、嬉しいことのほうがずっとずっと大きいですから」

「……君は、本当に……それでいいのか」

「もちろんです! 今だって、ちゃんとヴィンセント様が無事に帰ってきてくれた喜びで、胸がとっても温かいんですから。今日は久しぶりに、ぐっすり眠れそうです」

「……久しぶりに? まさかと思うが、何日もろくに寝ていない、などということは……」

「あっ、ええっと、その分ちゃんとお昼寝しましたから!」

 あわてているわたしの姿がおかしかったのか、ヴィンセント様がぷっと吹き出す。ああ、やっと表情が柔らかくなった。

 手を伸ばして、テーブル越しに彼の手をつかむ。それからもう一度、にっこりと笑った。

「それに、今回の件を経て……わたしたち、前よりも夫婦らしくなれたのかなって思います」

「そう……だろうか」

「ええ、そうですよ。夫婦って、楽しいことも苦しいことも、一緒に手を取り合って乗り越えていくんですから。そうやってお互いに支え合って生きていくんです」

「ああ、そうだな」

 わたしたちはそのまま、手を取り合って見つめ合っていた。さっきまでの落ち着かない沈黙ではなく、この上なく愛おしい静けさの中で。

 やっと、幸せが戻ってきた。心からそう思えた。 


 そうして、次の日。朝食の時、見慣れないものに気がついた。

 ヴィンセント様の耳に、小さな金色のピアスが輝いていたのだ。伯爵家の当主とは思えないくらいに質素な身なりの彼は、普段は飾り物のたぐいは一切身に着けない。

「ヴィンセント様、綺麗なピアスですね」

 そう声をかけると、なぜか彼は気まずそうな顔をして視線を泳がせた。

「ああ。……その、これは陛下にいただいたものなんだ」「……陛下に?」

「そうだ。今回の出陣、敵を追い返すこと自体はすぐに終わった。ただその直後、陛下の命により王都に向かうことになったんだ」