不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

 そう言いつつも、ヴィンセント様の顔はとても穏やかだった。

「分かってはいるのだけれど、君を驚かすのが楽しくてね。つい」

「つい、ではないだろう。エリカが驚いているぞ」

「ああ! なるほど、こちらの麗しい女性が君の奥方か」

 ブラッドと呼ばれた青年は、軽やかにわたしに向き直る。

「初めまして、奥方殿。エリカ殿、と呼んでもいいかな? 私はブラッド、君の夫の友人にして副官だ。今後ともよろしく」

「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」

 戸惑いながらそう答えると、ブラッドさんは明るい茶色の目を楽しそうに細めてにっこり笑った。ちょっとなれなれしくはあるけれど、嫌な感じはしない。

 ヴィンセント様はどちらかというと近寄りがたい雰囲気をまとっているけれど、ブラッドさんはとても人懐っこそうだ。二人は友人みたいだけど、まるで似ていない。

「まったく、こんな美人をもらったのなら、きちんと手紙にそう書いてくれ。心の準備をせずに出会ってしまったから、愛らしさに息が止まるかと思った」

 そして非難するような口調でそんなことをヴィンセント様に言い放っていたブラッドさんが、急に声をひそめる。彼はきょろきょろしながら、目を輝かせていた。

「ところで、幻獣はどこかな? 前に戦場で出会った、あの白くて大きくてやけに毛の長い狼だろう?」

「ああ、雪狼のことだな。確かにあれは幻獣で、この屋敷にしょっちゅう出入りしているが……飼っている、というのは違う。それに、あと二頭いる」

「そうなのか!? どうか、彼らに会わせてはもらえないだろうか」

 子供のような表情のブラッドさんに、そっと声をかける。

「ええ、いいですよ。それでは雪狼……ええと、ネージュさんっていうんですけど……を探しにいきましょうか」

 そうしてわたしたちは、三人一緒に部屋を出た。わたしが先に立って、きょろきょろしながらみんなを探す。

「あっ、ブラッドさん、こちらです。ちょうど、トレがくつろいでいます」

「トレ?」

「幻獣の一匹、草色の大きなネズミの名前だ」

「本当はトレーフルって名前なんですけど、トレって呼んでくれって、本人にそう言われたので」

 そんなわたしの言葉に、ブラッドさんが戸惑っている。

「本人にそう言われた……? もしかして、そのネズミは話せるのか?」

「ええっと……」

 ちらりとヴィンセント様に目で合図を送ると、彼は小さくうなずいた。どうやら、ブラッドさんには話しても大丈夫みたい。

「……なぜかわたし、幻獣の言葉が分かるみたいなんです」

「俺にはただの鳴き声にしか聞こえないが、彼女が幻獣たちと意思の疎通ができているのは確かだ」

 それを聞いたブラッドさんの反応は、予想外のものだった。彼は目を真ん丸にすると、顔いっぱいに笑みを浮かべたのだ。

「素晴らしい! 幻獣と話すことができるだなんて、なんともうらやましい!」

 あまりにもあっさり信じてしまったことに、今度はこちらが驚く番だった。

「……こいつは、昔からこうなんだ。気にするな」

 苦笑しながら、ヴィンセント様がこっそりつぶやいていた。