その言葉に、みんなの視線が一斉にわたしに向けられた。しかも見るからに、信じていない顔だ。どうしよう、困った。
「あ、あの、えっと」
『おいエリカ、だったらいいことを教えてやる』
心底おかしそうに、ネージュさんが口を開く。
『そのじいさん、部屋でこっそり孫からの手紙を読んでにやにやしていたぞ。それも一度や二度じゃない。普段はきりりとしてるから、たるんだ顔を他のやつに見せるのが恥ずかしいんだろうな』
『ならばわらわも力を貸そうかの』
スリジエさんも、笑いながら続ける。間違いなく楽しんでいる。
『そちらのおなご、屋敷の外でこっそり手紙を書いておったぞ。それも、恋文じゃ。秘密の恋……ときめくのう』
『秘密を話せばいいの? トレも知ってる』
トレが小さな手を挙げて、すらすらと話し始めた。
『そっちの、いつも中庭でお仕事してるおじさん。そのヒト、あっちのヒトに花をあげてたよ。内緒だって言いながら。二人とも、とっても仲良しだった。ヴィンセントとエリカみたいに』
「えーっと……聞いてはいけないことを聞いてしまったんですけど、どうしましょう、ヴィンセント様……」
わたしの表情を見て、ヴィンセント様は大体の状況を察してくれたらしい。
そういえば、ヴィンセント様の時もこうだった。ネージュさんが彼の秘密をばらしたせいで、ヴィンセント様はわたしがネージュさんと話せるのだと認めるはめになったのだった。
「……エリカ。誰のことが話されたのかは分からないが、ひとまず本人にだけ、そっと教えてやれ」
ちょっぴり疲れた顔で、ヴィンセント様がささやいてくる。すぐにうなずいて、使用人たちに近づいていった。
先頭に立っている執事長と、その斜め後ろのメイドと、一番後ろにいる庭師。幻獣たちから聞いたことを彼らの耳にそっとささやきかけると、三人とも言葉もないくらいに驚いていた。
「……今さっき、そこの幻獣たちが教えてくれたんです。あの、他のみんなには内緒にしますから……」
そう付け加えると、三人ともあわてふためきながら小声でささやき返してくる。
「しかし手紙を読む時、部屋には、誰もいなかったはずなのですが……」
「ネージュさんは、鏡の中からこっそりとのぞいていたのだと思います」
「手紙を書いている間、人の気配はなかったのに……気を付けたのに……」
「スリジエさんは空から見物していたのかもしれません……目がいいですし……」
「誰もいないことを確認してから、花を手折ったんだがなあ」
「トレはあの通りの色ですから、草花にまぎれ込むのも得意です」
順に説明していくと、三人はがっくりとうなだれて、それから同時につぶやいた。これは、信じるしかないのでしょう、と。
でも、他の使用人たちはまだ半信半疑だった。そんな彼らに、ヴィンセント様がそっと呼びかける。
「……その、あまりごねると、幻獣たちがさらに秘密をばらすかもしれない。次は、誰の秘密になるのだろうか……」
その言葉に、ざわついていた使用人たちがぴたりと黙る。
「彼らは見ての通りどこにでも現れるし、本気を出せば俺たちに悟られないように動き回れる。彼ら相手に隠し事をするのは難しい」
使用人たちの間に、また動揺が走る。それをなだめるように、ヴィンセント様はゆったりと告げる。
「ひとまず、信じて欲しい。幻獣たちはこれからも屋敷をふらふらするだろうが、悪意も害もないのだと。そしてどうか彼らのことは気にせずに、それぞれの職務に励んで欲しい」
堂々とした態度でそう言ってから、ふと彼は頭を抱えた。
「……というか、そうしたほうがいい。俺はこれ以上被害者を出したくないのだ。かく言う俺も、雪狼に秘密をばらされてしまったことがあってな」
その姿に、ついくすりと笑ってしまう。つられたように、使用人たちも小さな笑みを浮かべ始めた。ヴィンセント様も苦笑しながら、わたしたちをぐるりと見渡す。
『まあ、これで一応片付いただろう』
気づけば、ネージュさんたちも笑っていた。何がおかしいのか分からなくなっていたけれど、そのままわたしたちは笑い合っていた。
「あ、あの、えっと」
『おいエリカ、だったらいいことを教えてやる』
心底おかしそうに、ネージュさんが口を開く。
『そのじいさん、部屋でこっそり孫からの手紙を読んでにやにやしていたぞ。それも一度や二度じゃない。普段はきりりとしてるから、たるんだ顔を他のやつに見せるのが恥ずかしいんだろうな』
『ならばわらわも力を貸そうかの』
スリジエさんも、笑いながら続ける。間違いなく楽しんでいる。
『そちらのおなご、屋敷の外でこっそり手紙を書いておったぞ。それも、恋文じゃ。秘密の恋……ときめくのう』
『秘密を話せばいいの? トレも知ってる』
トレが小さな手を挙げて、すらすらと話し始めた。
『そっちの、いつも中庭でお仕事してるおじさん。そのヒト、あっちのヒトに花をあげてたよ。内緒だって言いながら。二人とも、とっても仲良しだった。ヴィンセントとエリカみたいに』
「えーっと……聞いてはいけないことを聞いてしまったんですけど、どうしましょう、ヴィンセント様……」
わたしの表情を見て、ヴィンセント様は大体の状況を察してくれたらしい。
そういえば、ヴィンセント様の時もこうだった。ネージュさんが彼の秘密をばらしたせいで、ヴィンセント様はわたしがネージュさんと話せるのだと認めるはめになったのだった。
「……エリカ。誰のことが話されたのかは分からないが、ひとまず本人にだけ、そっと教えてやれ」
ちょっぴり疲れた顔で、ヴィンセント様がささやいてくる。すぐにうなずいて、使用人たちに近づいていった。
先頭に立っている執事長と、その斜め後ろのメイドと、一番後ろにいる庭師。幻獣たちから聞いたことを彼らの耳にそっとささやきかけると、三人とも言葉もないくらいに驚いていた。
「……今さっき、そこの幻獣たちが教えてくれたんです。あの、他のみんなには内緒にしますから……」
そう付け加えると、三人ともあわてふためきながら小声でささやき返してくる。
「しかし手紙を読む時、部屋には、誰もいなかったはずなのですが……」
「ネージュさんは、鏡の中からこっそりとのぞいていたのだと思います」
「手紙を書いている間、人の気配はなかったのに……気を付けたのに……」
「スリジエさんは空から見物していたのかもしれません……目がいいですし……」
「誰もいないことを確認してから、花を手折ったんだがなあ」
「トレはあの通りの色ですから、草花にまぎれ込むのも得意です」
順に説明していくと、三人はがっくりとうなだれて、それから同時につぶやいた。これは、信じるしかないのでしょう、と。
でも、他の使用人たちはまだ半信半疑だった。そんな彼らに、ヴィンセント様がそっと呼びかける。
「……その、あまりごねると、幻獣たちがさらに秘密をばらすかもしれない。次は、誰の秘密になるのだろうか……」
その言葉に、ざわついていた使用人たちがぴたりと黙る。
「彼らは見ての通りどこにでも現れるし、本気を出せば俺たちに悟られないように動き回れる。彼ら相手に隠し事をするのは難しい」
使用人たちの間に、また動揺が走る。それをなだめるように、ヴィンセント様はゆったりと告げる。
「ひとまず、信じて欲しい。幻獣たちはこれからも屋敷をふらふらするだろうが、悪意も害もないのだと。そしてどうか彼らのことは気にせずに、それぞれの職務に励んで欲しい」
堂々とした態度でそう言ってから、ふと彼は頭を抱えた。
「……というか、そうしたほうがいい。俺はこれ以上被害者を出したくないのだ。かく言う俺も、雪狼に秘密をばらされてしまったことがあってな」
その姿に、ついくすりと笑ってしまう。つられたように、使用人たちも小さな笑みを浮かべ始めた。ヴィンセント様も苦笑しながら、わたしたちをぐるりと見渡す。
『まあ、これで一応片付いただろう』
気づけば、ネージュさんたちも笑っていた。何がおかしいのか分からなくなっていたけれど、そのままわたしたちは笑い合っていた。

