不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

 こんな風に、毎日にぎやかに、でも穏やかに過ごしていた。

 しかしそんなわたしたちのところに、ぽつぽつと使用人たちの訴えが届くようになっていた。

 彼らの訴えは、こんなものだった。

 鏡から何かが出てくるのを見た。廊下になぜか草が生えていた。玄関の扉が勝手に開いている。大きな桃色の影が一瞬現れてすぐ消えた。廊下を白い影が走っていた。庭から謎の生き物が生えてきた。などなど。

「……どうも使用人たちは、恐れをなしているようだな」

「メイドたちは怖がって、辞めたいって言い出してます……」

 屋敷の裏手の森の中で、わたしたちはみんなでこそこそと話し合っていた。議題は、屋敷の中にはびこっている噂をどうするか。

「それは困るな。今いる使用人たちは、俺が料理や掃除をすることに理解を示してくれている、数少ない存在だ」

「あと……その怪奇現象のことが、外にもれてしまってます。この屋敷『お化け屋敷』って呼ばれてるみたいで……」

『ほう、大変だな。ところで、またクッキーをくれ』

『それで、どう解決するつもりじゃ? わらわはブラシかけがいいのう』

『トレはどうでもいい。それよりあの中庭の草、おいしいから好き。節度を守ってちょっとずつ食べてるから大丈夫』

 当の本人たちは、けろっとした顔でそんなことを言っている。ついつい恨めしい目で彼らを見てしまう。

「みなさんがもっと気をつけてくれれば、こんなことにはならなかったんですよ……」

『お、おい、顔が怖いぞエリカ』

『可愛い顔がだいなしじゃぞ。ほら、笑うがよい』

『きゃあ、エリカ怖い。トレ、ぶるぶるする』

「……ヴィンセント様、どうやらあなたとわたしで考えないと駄目みたいです。ネージュさんたちはのんき過ぎて」

「そうか。……おかしなことが屋敷の中で起こっていて怖い、使用人たちがそう感じている状態を解消する、ということだな」

 ヴィンセント様にも、ネージュさんたちがだらけきっていることは分かったのだろう。彼らを見渡して、苦笑していた。

「しかし俺には、いまいちその感情が理解できなくてな」

「そうなんですか?」

「ああ。昔から俺の周りでは、不思議な影がいくつもちらついていたのだ。……その影を感じていると、俺は一人ではないと思えた。母を亡くし、一人で村を出た後、あの影たちにずっと支えられてきたんだ」

 懐かしそうな顔をしていたヴィンセント様が、小さくふっと笑う。

「……今にして思えば、あれも幻獣だったのかもしれないな」

「わたしもそう思います。きっとヴィンセント様は本当に、一人じゃなかったんです」

 ヴィンセント様に笑いかけると、優しい笑みを返してくれた。そのまま見つめ合う。

 ふと気づくと、ネージュさんたちが興味津々といった顔でわたしたちを眺めていた。あわててヴィンセント様から目をそらし、小さく首を横に振る。

「あ、いけない。問題を解決しないと、ですね。……わたし、ひとつ思いついたかもしれません」

 気を取り直してそう言うと、ヴィンセント様と幻獣たちが一斉にわたしを見た。

「ええと、つまりですね。よく分からないから怖い。だったら、分かるようにしたら怖くないんじゃないかなって」

 みんなが同時に首をかしげる。けれどやがて、その顔に理解したような色が浮かび始めた。

「まさか、それは……」

『おれたちの存在を使用人たちに教えるということか?』

『確かに、それがいいかもしれんのう。それにそうなれば、わらわも堂々とあちこち歩けるからの。もしかしたら、屋敷の中にも入れるやもしれん。面白そうじゃ』

『トレはどっちでもいい。ごはんとひなたぼっこの邪魔しないなら、ちょっとくらい触ってもいいよ』

 そんな三人の意見をヴィンセント様に伝える。それから全員で沈黙して、顔を見合わせた。そうして誰からともなく、うなずいた。

『決まりだな』