不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

 それは屋敷の居間で、ヴィンセント様とのんびりくつろいでいた時のこと。部屋の中には、ヴィンセント様お手製のクッキーのいい香りがただよっていた。

『ここにいると思ったぞ。遊びにきてやったのだから、感謝のあかしにそこのクッキーをよこせ』

 入り口の扉がいきなり開き、ネージュさんが姿を現した。大きな犬くらいに体を縮めた彼は、後ろ足で立って前足でドアノブを開けたのだ。

 さらにその後ろから、トレがのそのそと歩いてきた。

 トレは草の生えている地面なら、好きに移動できる。屋敷の中庭が気に入ったトレは、ちょくちょく遊びにくるようになってしまったのだ。

 それにつられるようにして、ネージュさんまでもが小さい姿で屋敷に出入りするようになった。

『トレも来た。木の床、ちょっと足がむずむずする。外で遊ぼうよ』

 そう言って、二人はクッキーを食べている。しかもお行儀よく、手を使って。

「お前たち、クッキーが気にいったのか。しかし、器用だな」

『幻獣をそこらの獣と一緒にするなよ。その気になれば、扉を開けるのもクッキーを食べるのもお手の物だ』

『トレ、知ってる。ヒトの食べ物は手を使って食べるきまり』

 それをそのままヴィンセント様に話してあげたら、ヴィンセント様は愉快そうに笑っていた。なんというか、父親のような目でネージュさんとトレを見ている気がする。

 そんなヴィンセント様を見て微笑んでいたら、窓の外から声がした。

『ちいとここを開けてたもれ。わらわだけ仲間外れは嫌じゃ』

 窓の向こう、中庭にはスリジエさんがいた。彼女もまた、こうやって屋敷まで顔を出すようになったのだ。

 目立つ大きな翼はどこかに隠しているのか、影も形もない。だから体つきだけなら、普通の馬と同じになっていた。けれど桜色の毛並みはそのままなので、やっぱり目立つ。

 見えずの霧をまとっていると分かっていても、ちょっと心臓に悪い。戸惑いながら窓を開けると、スリジエさんは首をにゅっと室内に突き出してきた。

『なんじゃ、エリカ、その顔は。心配せずとも見えずの霧は使うておるぞ。まあ時々、うっかり使い忘れたりもするがの。それより、わらわにもクッキーをくれぬかのう』

 差し出したクッキーを、スリジエさんは優雅に食べる。三枚ほど食べたところで、ほんの少し不満げにつぶやいた。

『のう、お主ら。今日は雲一つない晴天ぞ。ひなたぼっこもいいものじゃぞ。……別に、わらわだけ屋敷の中に入れなくてすねておる訳ではないからの』

 どうやらスリジエさんは、みんな外に出てこいと言いたいらしい。笑わないように気をつけながら、その言葉をヴィンセント様に伝える。

「そうか。確かに翼馬の言う通り、外でくつろぐのも良さそうだな。それではみんなで森に行こうか。……厨房にある残りのクッキーを持っていこう」

 その声に、三人は一斉に喜びの声を上げていた。どうやら三人とも、このクッキーがたいそう気に入ったようだった。