不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

 初めて会った時、ヴィンセント様はわたしを拒絶した。君を愛するつもりはない、と。

 でもあれから一生懸命頑張って、少しは彼に近づけたつもりでいたのに。いつか、もっと仲良くなれるかなって、ちゃんと夫婦になれるかなって、思い始めていたのに。

「だって、でも、屋敷に帰ったら編み方を教えてくれる、って……」

「すまない。だがこれも、君のためだ。本当はもっと早くに、言っておくべきだった」

 静かなヴィンセント様の言葉に、胸がぎゅっと苦しくなる。目の前がぼやけたと思ったら、もう涙の粒が転がり落ちていた。

 最初は、不安だった。良い話を聞かない、見知らぬ男性にいきなり嫁ぐことになって。

 でもヴィンセント様に会ったら、そんな不安はどこかへ行ってしまった。この人は信頼できると、きっと無意識のうちにそう感じていたのだろう。

 それからは、彼に近づこうと必死になって。彼と話ができる、それだけのことが嬉しくて。けれどとうとう、彼に別れを告げられた。そうしたら、とっても悲しくなって。

『おい、あいつ離縁だなんて言い出したぞ。まったく、気遣いがおかしなほうにいっているな。馬鹿を言うなと、一発はたいてやろうか』

『しっ、気持ちは分かるが今は様子を見るのじゃ』

 中庭の隅のほうから、そんな声がする。けれどそれすらも気にならないくらいに、苦しかった。

 どうして、こんなに苦しいのだろう。

 今までだって、夫婦らしいことは何もなかった。離縁されてしまっても、友人として付き合っていくことならできるかもしれない。

 むしろそうなれば、ヴィンセント様もかたくなにわたしを拒まなくなるような気がする。時折遊びにくるくらいなら、できるかもしれない。

 でも、嫌だった。離縁されるなんて、絶対に嫌だった。ヴィンセント様の妻でなくなるなんて、嫌だった。

 その時、ふと気づいた。なんだ、そういうことだったのか、と。止まらない涙が頬を濡らしていくのを感じながら、ゆっくりと口を開く。

「お願いです。離縁しないでください」

「離縁により君が不利益をこうむらないよう、最大限手を尽くす。だから、後のことは心配しなくていい」

 ヴィンセント様は苦しげに目をそらして、押し殺したような声でそんなことを言う。

 わたしを拒む言葉、でもそこに冷たさはなかった。そのことに背を押されるようにして、言葉を続ける。

「そうじゃないんです!」

 自分でもびっくりするほど、大きな声が出た。ヴィンセント様も目を見張って、こちらを見ている。