と、背後からぼそりと声がした。
「……君は、小さいな」
わたしを支えているヴィンセント様の腕に、力がこもっていく。けれどその腕からは、どこか戸惑いのようなものが感じられた。
「……俺の、妻か……やっぱり、守れそうにない……こんなに小さくては」
「ヴィンセント様?」
いつになく沈んだ声に、そろそろと振り向く。冬の空のような青灰色の目が、すぐ近くでわたしを見ていた。とても悲しげで、でも優しい目だった。
彼の言葉の意味はよく分からない。でも彼がわたしのことを気遣ってくれている、そのことは確かだった。
それが嬉しくて、彼の腕につかまったまままっすぐに見つめ返す。
すると、腕の中から小さな声がした。
『よし、うまくいったな』
『そうじゃな。やはりちょっとした恐怖は人同士の距離をぐっと近づける。頑張ったかいがあったというもの』
ネージュさんのつぶやきに、なおもふらふらと飛んでいるスリジエさんが答えた。二人とも、とても楽しそうだった。
『いい演技だったぞ、スリジエ。おれまでつい恐怖を感じそうになるような、見事な揺れっぷりだ』
『褒めてもろうたところ申し訳ないのじゃが、これは演技ではなくてのう』
『おい、ということは……』
『ほんにこの辺りは風が強うてかなわん。わらわ一人ならともかく、これだけ荷物を乗せていると、まっすぐ飛ぶのも難儀でのう』
そう言ってため息をつくスリジエさんに、ネージュさんがあわてた声で言い返す。
『落とすなよ、絶対に落とすなよ!! さっきはああ言ったが、さすがにこの高さから落ちたら、おれも無傷とはいかないからな!』
「落ち着け、雪狼。お前は俺が支えてやるから、そうほえるな」
ネージュさんの声は、ヴィンセント様にはただの鳴き声にしか聞こえていない。
けれど、ネージュさんがあせっているのは伝わったのだろう。ヴィンセント様がわたしの腕の中のネージュさんをなでてなだめている。
『おれじゃなくて、エリカをなでてやれ!』
『そうよのう。気のきかぬ男じゃ。なんならもう少し、揺さぶってやろうかの』
幻獣たちの声が、ヴィンセント様に聞こえなくてよかった。そんなことを思いながら、わたしはしっかりとヴィンセント様につかまっていた。
「……君は、小さいな」
わたしを支えているヴィンセント様の腕に、力がこもっていく。けれどその腕からは、どこか戸惑いのようなものが感じられた。
「……俺の、妻か……やっぱり、守れそうにない……こんなに小さくては」
「ヴィンセント様?」
いつになく沈んだ声に、そろそろと振り向く。冬の空のような青灰色の目が、すぐ近くでわたしを見ていた。とても悲しげで、でも優しい目だった。
彼の言葉の意味はよく分からない。でも彼がわたしのことを気遣ってくれている、そのことは確かだった。
それが嬉しくて、彼の腕につかまったまままっすぐに見つめ返す。
すると、腕の中から小さな声がした。
『よし、うまくいったな』
『そうじゃな。やはりちょっとした恐怖は人同士の距離をぐっと近づける。頑張ったかいがあったというもの』
ネージュさんのつぶやきに、なおもふらふらと飛んでいるスリジエさんが答えた。二人とも、とても楽しそうだった。
『いい演技だったぞ、スリジエ。おれまでつい恐怖を感じそうになるような、見事な揺れっぷりだ』
『褒めてもろうたところ申し訳ないのじゃが、これは演技ではなくてのう』
『おい、ということは……』
『ほんにこの辺りは風が強うてかなわん。わらわ一人ならともかく、これだけ荷物を乗せていると、まっすぐ飛ぶのも難儀でのう』
そう言ってため息をつくスリジエさんに、ネージュさんがあわてた声で言い返す。
『落とすなよ、絶対に落とすなよ!! さっきはああ言ったが、さすがにこの高さから落ちたら、おれも無傷とはいかないからな!』
「落ち着け、雪狼。お前は俺が支えてやるから、そうほえるな」
ネージュさんの声は、ヴィンセント様にはただの鳴き声にしか聞こえていない。
けれど、ネージュさんがあせっているのは伝わったのだろう。ヴィンセント様がわたしの腕の中のネージュさんをなでてなだめている。
『おれじゃなくて、エリカをなでてやれ!』
『そうよのう。気のきかぬ男じゃ。なんならもう少し、揺さぶってやろうかの』
幻獣たちの声が、ヴィンセント様に聞こえなくてよかった。そんなことを思いながら、わたしはしっかりとヴィンセント様につかまっていた。

