不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

『おまえたち、こちらにこい。特別に、おれの腹を貸してやる』

 テラスのど真ん中に寝そべったネージュさんが、大きな前足をぶらぶらさせてわたしたちを手招きしている。

「腹を貸す……ということは、もしかしてここに寄りかかってもいいのだろうか?」

『もちろんだ。今日は離れにおれたちが足を初めて踏み入れた、めでたい日だからな。おれの素晴らしい毛皮でくつろがせてやる』

 ネージュさんの厚意に甘えて、ヴィンセント様と二人してネージュさんのわき腹に寄り掛かる。とたん、もふもふの白い毛にすっぽりと埋もれた。

「うわあ、気持ちいい……」

「最高級の寝具のようだな。いや、こちらのほうが上か」

『そうだろう、そうだろう。……ああ、それにしてもいい天気だ』

 そのままネージュさんの声が途切れ、やがて安らかな寝息が聞こえてくる。いつの間にかテラスは、幻獣たちの幸せそうな寝息の音で満たされていた。

 そんな幸せな静けさを邪魔しないように、隣のヴィンセント様に小声で話しかける。

「……わたしがこのお屋敷に来た時には、こんなことになるなんて思いもしませんでした」

「そうだな。あの頃の俺は、君を追い返すことしか考えていなくて……苦労をかけたな」

「いいんです。今はもう、とっても幸せですから」

「……俺も、幸せだ。信じられないくらいに」

 ごろりと寝返りを打って、ヴィンセント様のほうに向き直る。彼もまた、こちらを向いていた。

 白いふわふわの毛に埋もれたまま、間近で見つめ合う。

 この世界にわたしたち二人しかいないような、そんな気分だ。周り中に幻獣が寝転がっているし、わたしたちはネージュさんを枕にしているというのに。

「本当に、彼らには感謝してもしきれない。彼らがいなければ、俺たちはずっとすれ違ったままだっただろう」

 懸命にヴィンセント様に話しかけては、つれなくかわされていたあの頃を思い出して、ちょっぴり悲しくなってしまう。あの辛い日々から抜け出せたのは、ネージュさんたちのおかげだ。

「エリカ、どうした」

 ヴィンセント様が心配そうに、わたしの顔をすぐ近くからのぞき込んでくる。ふわりと広がっていたわたしの淡い金の髪が、彼の頬に触れていた。

「いえ……ちょっと、昔を思い出してしまって」

 そう答えると、ヴィンセント様は腕を伸ばしてきた。そのまましっかりと、わたしを抱きしめてくる。

「もう、あの日々には戻らない。俺はもう、君を手放すことはない。もし君が離縁を望んでも、もうその願いはかなえてやれない」

「そんなこと、望みません。わたし、一度だってそんなことを望んだことはありませんから」

「……そうか。俺は本当に、果報者だな」

 ヴィンセント様が、優しくわたしの髪をなでている。くすぐったくて、とってもどきどきする。

「俺は、器用なほうではない。これからもきっと、君には迷惑をかけると思う。だがそれでも、どうか俺と共にいてほしい」

 彼にしては珍しい、哀願するような、頼りない声。こみあげてきた愛おしさに突き動かされるように、言葉を返す。

「はい。わたしは、あなたの妻です。何があっても、わたしたちは一緒です」

 返ってきたのは、とても優しい口づけだった。