不器用なわたしたちの恋の糸、結んでくれたのは不思議なもふもふたちでした

 陛下がそう答えたとたん、スリジエさんが見えずの霧を消した。同時に、優雅に翼を伸ばす。

 その風に巻き込まれたフラッフィーズが彼女の背から転がり落ち、抗議でもするかのように数を増やしてぱたぱたと群れで飛ぶ。

 スリジエさんの背にいたネージュさんも床に降り立ち、普段の大きさに戻る。長く美しいしなやかな毛を見せつけるように、悠々と首を振っていた。

 二人の間に挟まれたトレは、いつも通りのんびりと鼻をひこひこさせている。

「なんと、まあ……まこと、不思議なる生き物じゃ……」

 彼らの姿を目にした陛下は、目を真ん丸にして驚いていた。感動したような声で、うっとりとつぶやいている。

『ふむ、そなたが人間の王か。わらわたちが珍しいようじゃのう。よいぞ、存分に見つめるがよい。称賛されるのは好きじゃ』

『エリカはおれを怖がらなかったが、こいつもか。ううむ、もう少し威厳を出したほうがいいのかもしれんなあ』

『おもしろいヒト。ここで草を生やしたら、驚くかな?』

 みんなが口々にそう言うと、陛下はしわだらけの顔に大きな笑みを浮かべた。

「ほう、ほう、本当に話ができるのじゃな。なんと素晴らしい」

 よく見ると、陛下の耳には見覚えのある金色のピアスが輝いていた。ヴィンセント様が目を丸くして、陛下に声をかける。

「陛下、わざわざそのピアスを持ち出されたのですか」

「そうじゃよ、ヴィンセント。お主の話を聞いておったら、もういても立ってもいられなくてのう。どうしても、彼らと話してみたかったんじゃ」

『このヒト、変なヒト? トレたちと話したいって。わざわざ』

『かもしれないな。もっとも変だというなら、ヴィンセントやエリカもたいがいだが』

『わらわたちと話せたことが、そこまで嬉しいとはのう……悪い気はせぬが』

 三人は口々に、割と失礼なことを言っている。彼らは人間の仕組みの外にいる存在だから、王様に対する礼儀なんて持ち合わせていないのだろう。陛下は気にしておられないようだけれど。

「ヴィンセント、エリカ。お主たちに、改めて褒美を取らせなくてはな。先の戦の功労と、そして彼らをわしに引き合わせてくれた礼として。何か、望むものはあるじゃろうか」

 その言葉に、思わずヴィンセント様と顔を見合わせる。褒美。何か、欲しいものはあっただろうか。

 考えても考えても、思いつかない。強いて言うなら、ヴィンセント様が二度と戦に行かなければいいのにな、と願いたい。でも、さすがにそれは無理な話だ。

 ヴィンセント様がいて、みんながいて、毎日穏やかに暮らせている。それ以上、何を望むことがあるのだろう。

 困り果てていると、ヴィンセント様が小さく笑った。それから陛下に向き直り、きびきびとお辞儀をする。