「そんなことできるの?」

「輸出する日本の菓子が大きな課題だったんだ。海外向けに商品を新しく作るとなれば、うちの部署の意見を聞かないと向こうはちんぷんかんぷんさ」

 莉愛はあっけにとられた。これで驚かされるのはいったい何度目だろう。祐樹といると新しいことをさも当たり前のように提案されてしまう。恋心とは別な意味でドキドキしっぱなしなのだ。

「さてと、急がないといけないが、君の成長を少し待つ間にどうやるか……」

「ねえ、私はどうなるの?」

「どうなるのって、とりあえず約束通り千堂の海外事業部へ正社員として入社してもらうよ。そして、君にはみっちりと英語の勉強をしてもらう。そして海外の菓子業界についても勉強してもらいたい。修二の下でうちのイロハを学んでもらう。僕と一緒にあちらへ移った時に恥ずかしくない程度にはなってもらうぞ」

 莉愛は真っ青になった。嫌な予感しかしなかった。

「仕事の話はおしまいだ。莉愛、籍を入れるぞ」

「だめ。社長は私のこと許さないって暗に言っていたじゃない」

「それは最初だけだ。帰り際は笑顔だっただろう。佐伯の両親は基本的に僕を尊重してくれている」

「そんなはずないわ。私があなたの親でも、この話の持って行き方じゃ、祝福しないわ」

「そんなことはない。話していた感じでは母は最初から許してくれていた。父は唐突だったし、取引のこともあるから、会社の手前少し時間が欲しいだけだ。でも僕は君のご両親と約束したし、先に籍は入れたい」

「うちの親のことは大丈夫よ。どうしてそこまで入籍にこだわるの?」

「どうしてって……しょうがない子だな。僕が君のために、あの時立候補したのがなぜなのか、まだわからないのか?」

 祐樹は助手席に覆いかぶさって莉愛に突然キスをした。

「んっ!」