莉愛はうなずいた。

「そうなんです。何しろ、プロポーズも直感で、先ほど話した通り、後から御曹司だと教えられたんです」

「ひどい話だな……」

 社長はお茶を飲みながら笑っている。祐樹はむっとして言った。

「僕のそういった背景を理由に結婚したいと思ってほしくなかったんだ。僕自身を見てほしかったから言わなかったんだよ」

 社長夫人はそんな祐樹を見て言った。

「祐樹、政略結婚に近いのに自分の家のことを隠すなんて縁談としては規則違反よ。莉愛さんも祐樹がどこの誰か知らないのに結婚に同意したの?」

「その時は祐樹さんの人柄と私の夢を応援してくれていることがすべてでした」

「それなのに僕の素性を知ったら怒りだして、あげくフラれそうになった。普通の女性は喜んで食いついてくるのにね。莉愛は普通の女性の逆をいくんだよ」

「祐樹が君に執着するわけだな。なるほど、よくわかった」

 ふたりは佐伯の家を出ると、車に戻った。

「祐樹さん、サエキ商事に移ったら抹茶のお菓子は作れないじゃない……話が違う……」

「僕は嘘を言わない。君の夢は僕の夢でもある。サエキに移るまで半年はある。それまでに必ずその機会を作る」

「え?」

「海外向けに新しいお茶を組み込んだ菓子を作る。君の夢を実現させるぞ。それだけは僕もやりたいんだ。前から考えていたんでね」

「出来るんですか?商品開発課じゃないんですよ」

「商品開発課に気持ちは前から伝えている。君が入ったんだし、本気で根回ししてみよう」