土曜日の朝。

 祐樹が莉愛の家に車で迎えに現れた。両親は揃って挨拶に出てきた。

 そして、取引の件の礼を言った。父はおととい、サエキ商事で話をして来たばかりだったのだ。

 莉愛の父はお土産として本山茶舗の一番有名な抹茶のセットを佐伯社長夫妻にご挨拶代わりでお渡ししてほしいと祐樹に渡した。

「そういえば祐樹さんって、今どこに住んでいるの?もしかして千堂のおうち?」

「僕が今いるのは亡くなった母の実家。空き家なんだけど、僕が寝に帰るだけだから……渡米するまではあそこにいる」

「空き家?!そんなところ大丈夫なの?」

「静かで快適だよ。口うるさい兄や、縁の切れた父もいない。ちょっと虫が多くて大変なんだけど、ね」

 祐樹の横顔が憂いを帯びた。いつもはきはきと元気のいい祐樹とは違う。

 莉愛は葛西から以前、祐樹が養子になる経緯で何かあったと聞いていたが、ひとりで亡くなったお母さまのご実家にいるという状況が彼の背景を少し物語っている気がした。

 佐伯社長ご夫妻と養子縁組をしてあちらに住んでいたのに、もしかして自分のせいで不仲になってここにいるのかもしれないと怖くなった。

「祐樹さん」

「ん?」

「ねえ、全部話してほしいの。これから行く佐伯のご両親と……もしかして私のせいで喧嘩したから家を出たの?」

「いや、そんなことはない」