夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる

「そうじゃないよ、心配しないでいいから……。ほらみろ、余計なこと言うなよ、姉さん」

「そうね、ごめん。とにかく私は両家の家族代表として、ふたりを応援してるから心配しないでね。それと、祐樹。彼女、プロポーズが嘘だったと思っているみたいよ」

「……はあ?」

 莉愛は祐樹を恨みがまし気に見上げた。

「だって、あれからなんの連絡もないし……父もやっぱり縁談を壊すために言っただけじゃないかと言うからそうかもしれないと思い始めてた。大体、正社員の話だっていつからかとか何も聞いてなくて本当に不安だったの」

「ごめん……結婚のことも本山茶舗の件もきちんとしてから連絡しようと思ってたんだけど、サエキの父が結構難関でね。取引のことは決まったけど、結婚のことはどうしても許してくれないんだ。君にそんな顔をさせたくなくて黙ってたんだけど、すまない」

「祐樹、本当にもう……直感もいいけど、結婚は根回しをしてからきちんとしなさい。あちらのご家族にも嫌われるわよ。お前はそういうところに頭が足りてないの。お父さんと実は似てるのよ。いわゆる仕事馬鹿、プライベートはダメダメだからね。そんなことしてると嫌われるわよ」

 嫌われる?

 嫌う権利なんて莉愛のほうには全くない。迷惑かけたのは本山の家だ。

 莉愛はあの花邑の御曹司とは絶対結婚したくなかった。祐樹に救ってもらったのだ。

「嫌うなんて……彼には感謝しています。少なくとも正社員にして頂きました。結婚のことは祐樹さんに万が一その気があっても、ご家族が絶対反対なさるのはわかっていましたから。うちの茶舗のことや縁談で彼に迷惑かけていたのは私です。祐樹さん、結婚は無理しないでいいの。それと何かあるなら話してください。取引のことも……」

「ああ、大丈夫だから心配するな。とりあえず、行こう。姉さん、また……」

「そうね。本山さん、またね」

「はい」