夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる

「プロポーズは本気です。僕がここに来たのは莉愛さんを他の人に取られないためです。別に本山茶舗との取引をカタに誰かさんの様に彼女を娶るつもりは最初からありません。いずれ彼女にはプロポーズすることになると思うからです」

 莉愛と莉愛の父は驚いた。

 祐樹の目は澄んでいた。本気なんだと莉愛はようやくわかった。

「ふんっ。菓子会社の海外事業部長ができる提案なんて、同業の私と比べるまでもないでしょう、本山さん。提案は別な日にしてほしいものだね。さっさと君は席を外したまえ。私は莉愛さんと縁談の前に話がしたくてわざわざ待っていたんだ」

「花邑さん、それなら本山茶舗の今後について提案を競いませんか?選ばれた方がとりあえず莉愛さんとの結婚に立候補する権利を得るということで……ただし、結婚するかどうかは彼女が決めればいいことです」

 莉愛の父は最後の一言を聞いて目をつむり、答えた。

「花邑さん、大変申し訳ございません。莉愛とこのままお話頂いてもご不快をお与えするだけかと思います。この場はこのあたりでご勘弁頂けませんか。後日、お詫びに私共がお宅へ改めて伺わせていただきます。その方が落ち着いてゆっくりと話ができると思います」

「どうして私が帰らないといけないんだ、いい加減にしろ」

 ピンポーンと玄関で音がした。莉愛の母がいそいそと玄関へ出て行った。そしてすぐに戻ってきた。

「あの……これを佐伯さんに渡してほしいと部下の方から預かりました」

「ああ、すみません。ありがとうございます」

 祐樹は受け取った書類をぱらぱらとめくり目を通している。そして、横に座る私へその書類を見せた。

「え?これ……ちょっと待って、祐樹さん……」

 プリントには『花邑茶舗の提案と業績について』と書かれている。

 花邑茶舗の最近の業績がグラフになっている。下り坂で赤字マークがたくさんついている。今期予測値も赤字だ。