「諦めさせるって何よ!」

 すると、兄が沙也加をにらんだ。

「いい加減にしろ。お前にはほとほと呆れる。言っておくが佳代とはきっぱり別れた」

「え?それは本当なのか……兄貴」

 佳代は沙也加の友人。とにかくこの二人は押すだけで引くことを知らない……。

 兄も以前から彼女に追いかけられていたのは知っている。兄が周囲の圧力に弱い性格なのも知っていたので、追い詰められてつき合ったのかもしれないと思っていた。

「ああ。親父を味方につけて面倒だったが、きちんと別れた」

 僕は驚いた。

「そうよ、佳代が可哀そう。それも許せないから帰ってきたのよ」

「馬鹿らしい。沙也加、お前そろそろ日本へ戻ってうちを退社しろ。お前の親父さんはうちの父に文句を言ってきていて大変だったんだぞ」

「え?何言ってるの?」

「とにかく一度実家に帰れ。ご両親はお前がアメリカへ行くことを許してなかっただろう。何年も平気で帰らないし、怒ってたぞ」

「パパが特にうるさいから家は嫌い。あなた、私を裏切る気?それに私、新商品のコンペにエントリーするんだから!」

「パティシエからそれも苦情が来てる。今、引き下がった方が恥をかかずに済むぞ。アメリカ事務所はそんなこと頼んでないと言っていた」

 兄が沙也加を追い詰めるのを初めて見た。

「あんたたち、本当に最低!恩知らずよ!パパに言ってコテンパンにしてもらうからね」

「ああ、楽しみにしてる。早く帰れ!」

「ねえ、おじ様はいる?」