「はい」

「なんだ、じゃあ私がエントリーしたって意味がなかったじゃないの。負けは決定?」

「そんなことはありませんよ。部内公募にしたのも、コンペをさせるのも贔屓と思わせないためです。私が落ちても自己責任だと言われてます」

「……まあ、表向きはそうでしょうけど、気持ちはあなたを全力応援でしょう」

「すみません」

「あはは、いいのよ。本山さんはいい人で努力家なのは見ていてわかったし、部内の人間も今はあなたを疑う人がいなくなった。あなたの努力が実ったのよ。今回のコンペもお茶屋のお嬢さんだというからそういうものを出したいと言っていたのをみんな理解していた」

「あの……」

「ああ、大丈夫。誰にも話さないから安心して。いずれ話すんでしょ?コンペの後?」

「そうですね、その予定です」

「それなら贔屓と言われないように、私を勝たせてくれないとだめじゃない?うふふ……」

「正直、おそらく香苗さんの方が勝つと思います」

「それはどうかしら?個人的にはどちらも本選に出したいな。あなたの商品は国内向けのほうが勝てる気もする」

「私もそう思ってます。だって、私が元からずうっと考えていたのは国内向けなんです。もう、五年以上前から考えていたんです」

「そんなに前から?」

「はい。だから彼には悪いけれど、海外向けにしろと言われてもなかなか妥協できなくてこんなことに……。中途半端で結構悩んでいるんです」

「そうだったのね。わかったわ。私からも部長に話してあげる。国内向けで十分戦えるから本選向きだと思う。おそらく、パティシエも同じことを言ってたんじゃない?」