祐樹は沙也加を残して部屋を出た。そして、フロアの人に謝った。

 ☆ ☆ ☆

 莉愛は部長室を出た後、修二から声をかけられて涙を拭くとエレベーターホールで向き合った。

「本山さん、ちょっと出ようか」

「中でいいです、どこか上の部屋を……」

「そうだね」

 ふたりはワンフロア上の会議室がたくさん並んだフロアへ上がると、空いた会議室に入った。そして、修二は缶コーヒーを自販機で買うと莉愛に渡して二人で座った。

「驚いただろう。大丈夫か?沙也加さんのことは必要以上にあまり考えるな。祐樹と交際していたことはない。親の手前、今までまとわりつかれていたのを妹の様に思って我慢していただけのことだ。今日からはきっとそうならない。尚人から聞いたよ。あいつに入籍のこと話したそうだね」

「はい、話しました。約束を破ってごめんなさい」

「いや、謝らないといけないのは僕の方だよ。尚人に叱られた。祐樹の家族のことや、沙也加さんのことも先に話しておくべきだった。今日は本当に後悔した」

「修二さんは悪くない。悪いとしたら祐樹さんでしょう。沙也加さんのことは知りませんでしたが、専務や社長に挨拶していない不自然を見て見ぬふりをしていた私にも責任があります。大事なことも聞けない情けない形ばっかりの夫婦なんです」

「本山さん、それは違うだろう。祐樹もいつか話すつもりなんだよ」

「違いません……最初から負い目もあるし、対等な関係じゃないことは百も承知です。佐伯社長にも言われてます。当たり前のことです」

「本山さんは……まさか祐樹と別れる気なの?」

 莉愛はふっと笑った。