夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる

　何があったかは本人しかわからないと言っていた。莉愛は耐え切れなくなり、黙って背中を向けると足早に部長室を出た。

「莉愛！」

　祐樹が追いかけようとしたら、修二が抑えた。そして、僕が行くからと言って莉愛を追いかけた。

　祐樹は嬉しそうにしている沙也加をにらみつけた。

「沙也加、莉愛に誤解させるようなことを言ったな。彼女を傷つけたらお前を許さないと言ったはずだ。彼女は僕の妻だ。失礼にもほどがある」

「誰にも言えないような妻？誰も認めていない、親兄弟にも会わせていない妻なんている？」

「佐伯の両親は会っている。今の僕の家族は佐伯だ」

「祐樹、へりくつばっかり……彼女はあなたの家との関係を知っているの？実家に連れて行かないあなたを何も聞かないなんておかしいでしょう？向こうの親は許してるの？私と結婚したなら何の問題もないんじゃない。皆大歓迎だわ」

「だからってそうはならないと言ってるはずだ。莉愛がいなくても沙也加とはどうにもならない」

「どうかしら？亡くなったお母さまだって私との結婚を望んでおられるはずよ」

「母さんは僕が選んだ人を尊重する。沙也加、僕に執着するのはなぜだ？僕がお前と絶交するまで追い詰める気か？」

「……祐樹、ひどい……私はただ、あなたが好きなだけなのに……あなただってそうだったはずなのにどうして最近……」

「それは違う。好きだったらとっくに付き合ってた。沙也加、お前こそ全部暴露されたいのか？周りはそれを聞いたらなんというだろうな」

「……祐樹……」

「僕が黙っていると思うなよ。僕はどう思われようとも構わない。莉愛を傷つけるなら、お前の隠していることを父と兄に話す」

「やめて！」

　沙也加は叫んだ。フロアの人間が心配して覗いている。