「それにしても……本山さんも可哀そうだな」

「莉愛は僕が必ず守る。問題は兄貴だ。沙也加の親友と付き合っているからな。父さんは沙也加の両親と親しいが、莉愛との結婚は別だ。佐伯の両親が認めた段階で父は許している」

「それよりどうする?」

「莉愛は今大事な時期だ。コンペに集中させてやりたい。余計な横やりは俺が取り除く」

「沙也加さんを大人しくさせられるのか?帰国までして、あの調子だと大変だぞ」

 修二ははしゃいでいる彼女にあごをしゃくった。仕事中だという意識が相変わらずない。

「莉愛はどこに行ったんだ?」

「資料室だ。そろそろ戻ると思うぞ」

 そこへ莉愛が丁度資料を抱え戻ってきた。

 フロアに人だかりができている。びっくりして何だろうと彼女が見ると、先ほど廊下ですれ違ったサングラスの女性だった。

「修二さん、あの……」

「ああ、お疲れさん」

 修二は莉愛の前に来た。抱えていた資料をもらってやった。

「あの女性は……お客様ではなさそうですね」

「ああ、彼女はアメリカの事務所にいる、斉藤沙也加さんだ」

「斉藤……沙也加さん……沙也加って……」

 莉愛は葛西の言葉を思い出した。彼女に違いない。例の祐樹の幼馴染の女性だ。

 莉愛は彼女をじーっと見た。祐樹が沙也加を連れてこちらに来た。背が高い。そしてショートカットに大きなピアスが揺れている。猫のような眼が印象的。