「お前も知っているだろう。あいつは何を言ってもだめだ。ストーカーよりひどい。こうなると両家のことは無視して絶縁するまでだな」

 祐樹にとって沙也加はもはや目の上のたんこぶだ。

 沙也加は一歳下の幼馴染。祐樹の年子の兄とも親しい。彼女は父親同士が知り合いで昔から家族ぐるみの付き合いだった。

 彼女は物心ついたころから祐樹が好きで、同じ大学に祐樹を追いかけて入学してきた。会社も当たり前のように追いかけて入ってきた。

 父は昔から、ハキハキと自分の意見を言う美人の沙也加に甘かった。

 葛西兄弟は祐樹のいとこだったので、彼女と面識が昔からあった。

 修二の彼女になった菫は沙也加が指導員で入社してから一緒にいることが多かった。

 引っ込み思案の菫とこの調子の沙也加。力関係がこうなるのはしょうがない。

 沙也加は祐樹がサエキ商事の養子になると決まった時から、祐樹の周囲や自分の親に頼んでは自分と祐樹に縁談が結ばれるよう周りから篭絡しようとした。

 祐樹にいつか大きな縁談が来て、祐樹を誰かお嬢様にとられるかもしれないとおびえていたのだ。

 祐樹自身は彼女の誘いを断り続けているのに、周りは勘違いしていた。

 祐樹が誰とも付き合わず仕事にまい進しているせいだった。

 そして、海外事業部にいた彼女らが、しばらくして父に頼んでアメリカへついてきてしまった。

「祐樹、菫にはよく言い聞かせる。そうはいうが、祐樹が急いで本山さんと入籍したのも、沙也加さんがいないうちに何とかしようと思ったからだろう?」

 祐樹はため息をついた。

 そしてはしゃいでいる沙也加の後姿を見た。

「あいつを何とかしたいのは今に始まったことじゃない。だが、おそらく入籍やコンペのことを聞いて、お前にかこつけて莉愛を見に来たのは確かだろうな」