夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる

「なんなの？」

「祐樹さんとずっと前から結婚したがってる。うちの社長は沙也加さんと結婚させたがってた。兄の専務も応援してた。気をつけた方がいい。沙也加さんは兄貴の彼女の菫さんの指導員だった人で、今アメリカ事務所に菫さんと一緒に行ってる。専務の彼女も沙也加さんの親友だから、取り込まれてる。兄貴と祐樹さんがアメリカへ異動したときもついていったんだぞ」

「え？あの、もしかして元カノなの？」

「いや、違うと聞いてるけど、何があったかまでは当人しかわからないだろ。付き合ってないけど、なんか二人の間では一時期あったらしい。沙也加さんがそう言っているんだ」

「……なんか、あったって、なに？」

「いや、ないかもしれないから……なんともいえないけど……」

「葛西君」

「なに？え？泣くなよ、おい……」

「泣いてないもん」

「嘘つけ、何だよ、その目……ああ、目が赤いぞ。」

　莉愛は下を向いて唇をかんだ。祐樹の兄である専務やその父親である社長に一度も会っていなかった。

　祐樹が連れて行ってくれないのもあるが、あちらは完全に無視している感があった。目を反らしてきたことの背景にまだ何かあるのだろうと思った。

　沙也加のことも全く知らなった。初めて知って動揺した。顔を覆ってしまった。

「落ち着けよ、ごめん、言い過ぎた。わかってないことで不安がらせてごめん。俺の方で探ってやる」

　莉愛は被りを振った。

「ううん、いいの。専務と社長に会ってないのはおかしいのもわかってる。でもそれは、結果を出してからでもいいと思ってたの。コンペが終わったら、祐樹さんが連れて行ってくれなくても私から会いに行く」