夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる

「本当ですか?」

「はい。僕もパティシエとして新しいことは追及したいので、楽しみです」

 そう言われて莉愛も嬉しかった。

 ☆ ☆ ☆ 

 驚いたことに、パティシエは相談した日の夜から試作を開始したと連絡があり、莉愛の携帯に画像がさっそく数枚送られてきた。

「すごい、綺麗……嬉しい、涙が出そう……」

 莉愛はずっと頭の中で一人描いていたものが、実際に作られたことだけでも夢のようだった。正直商品化よりこの試作がまず何より現実として嬉しかった。

 その日の夜は、久しぶりに葛西と食事に来ていた。祐樹がなかなか彼との食事を許してくれなくて、ようやく許しが出た。

「久しぶりだよな。せっかく戻ってきたのに忙しすぎて全然会えないとかおかしいだろ。俺は色々疑われてたのか」

「本当にごめんね」

「冗談だよ。大体、何がそんなに忙しいんだ?英語か、兄貴がうるさいからか?」

「覚えてる?私の作りたいお茶のお菓子を書いていたスケッチブックのこと。今度、新商品の社内コンペがあるの知ってる?」

「ああ、そういえばあるらしいよな。そうか、本山出すのか?」

「うん。今ね、試作中なの。内緒で見せてあげる。これなんだけど……」

 莉愛は試作の写真を尚人に見せた。

「へえー、すごいじゃないか。綺麗だな。お前が作ったの?」

「ううん、うちの提携パティシエに頼んで試作してもらうの。想像以上の出来でびっくりだわ。味がわからないけど、どうだったのかなあ……」