「とりあえず、いくつか絞って来月の新商品社内コンペに応募してみたらどうだ」

「新商品社内コンペ?初めて聞いたわ」

「社内公募するんだ。うちの商品を知り尽くしていないと応募がまずできない。同じような商品は審査段階で省かれるからね。このコンペは5年以上このご時世もあって休止していた。姉に働きかけて今回父を動かした。来月ひさしぶりに新商品のコンペが商品開発課主体で開かれる」

「祐樹さん……すごい、社長を動かしたの?」

「もちろん。莉愛のための舞台は僕が作る。ただし、ここから先は自力で行ってもらいたい」

「あの、具体的にどこまで提案者がやるものなの?私お菓子作りはあまり自分でしていないので、こういう風に案を作ることはできても、実際に作るのは誰かに相談しないと無理よ」

「当然だ。うちと提携しているパティシエが個別で相談に乗るらしい。試作も可能と聞いている」

「よかった……」

「安心するのはまだ早い。今回、海外事業部内で事前コンペをしようと思っている」

「海外事業部の中で新商品の案を募集するの?」

「そうだ。海外向けの輸出用の新しい菓子というコンセプトだ。その中で部内投票を行い、勝ち残った人の案を社内コンペに提出する。いくつ出すかは未定だが、皆の意見を聞いてそれは決めようと思う」

「わかった。部内コンペで勝たないと社内のほうに出さないということね」

「それはまだわからない。莉愛を贔屓していないことをあとで説明する必要がないように、君への壁を増やすんだ。悪いが、君の案よりもいいものがあればそちらを出すことになるかもしれないぞ」

 祐樹はきっぱりと言った。

「これは、この部への僕の置き土産にするつもりなんだ。新しくみんなで選んだ商品を輸出するとなれば、部内全体のやる気も違ってくると思うんだ」