祐樹は前もって約束していた商品開発課をひとりで訪ねた。

 海外事業部として輸出用の新しい菓子を四年ぶりのコンペに出してみたいと相談したのだ。

「なるほど……個人として提案するわけではなく、海外事業部として提案したいということですか?」

「海外事業部の中で競わせて、代表として出してもいいかと思っているんだ」

「面白いですね」

「ただ、仕事も忙しいので、出来ることならこういう商品を作りたいというコンセプトを皆から先に挙げてもらい、実際に作ることが出来るのかをそちらの提携しているパティシエなどに確認させてもらいたいんだ」

「それは構いません。事前にそういう相談はもちろん受け付けています。皆、菓子作りは素人ですからね」

「じゃあ、そうさせてもらう。二週間程度時間をもらってこちらで先にコンセプトを決めて相談させてもらうよ」

 その日の夜、早速祐樹は莉愛に言った。

「莉愛、そろそろ君の夢を実現するために動き出そう」

「え?」

「今の仕事にずいぶん慣れて来ただろう。次のステップへ進もうか。スケッチブックを見せてほしいんだ」

 莉愛はバッグを持ってきて開けた。常に持って歩いているのだ。

アイデアが浮かぶこともあるし、これを見ていれば仕事のつらさや大変さも乗り越えられる。

この夢の実現のため、日々辛いことにも向き合っているのだ。そう思えば頑張れた。

 莉愛は祐樹にスケッチブックを渡した。祐樹は中を見ながらつぶやいた。

「なんか、最初見た時より増えてないか?これ、なかったような……そうだ、あの花のデザインはどこへ行った」