「えー?!いつもは香苗さんがやってましたよね」

「そうなんだけどさ、香苗さんは自分の仕事もあるからね。大変だといつもこぼしていたから、そろそろ新しい当て馬を連れて来たのさ。それで僕は急いで調教したがいい感じになってきただろ。最後の仕上げは騎手の部長に任せよう」

 びっくりしたんだろう、須藤は莉愛と修二をかわるがわる見ている。

「ちょっと修二さん!私は馬じゃありませんよ!」

「いや、思ったより速く走れる馬になった。素晴らしいよ、本山さん。後は頼んだよ、部長」

 ひらひらと手を振って修二は祐樹を見た。

「さてと、須藤とデートに行こうかな……」

「はあ?僕は……本山さんと……」

「これから本山さんは部長からお仕事について説明があるらしいよ。お気の毒様。僕らは邪魔だからね、さ、須藤、行こう。奢ってやるよ」

 須藤は修二の無理やりさに何か感じたんだろう、莉愛をじいっと見ている。

 すると、祐樹がいつの間にか莉愛の腕を引っ張って部長室へ押し込んだ。

「あ、部長……」

 バタンとドアが閉まった。

「何するのよ」

「何するじゃない。須藤に言い寄られてどうしてすぐに断らない?何で迷うんだ」

「……まさか、見てたんですか?」

 彼がフロアに面したブラインドを少し広げて覗いた。須藤が背中を向けてパソコンを落としている。