夢見る契約社員は御曹司の愛にスカウトされる

「ええ?何を言ってるんです?」

「いや、修二にいじめられて毎日元気がなくなっていくじゃないか。最近も夜全然電話してこないし、正直心配になった。電車で変なこと考えないといいなと思ってさ」

「変なことなんて考えませんから、安心してください。それに頑張るって決めたし、あなたのためにも成果を出します」

「思ったより前向きだな。よろしい……ん、何をやってたの?」

「えっと……アプリを使って英語の勉強」

「ほおう。偉いじゃないか」

「学校で英語が苦手だったのに、本当に大変……修二さんが期待するレベルには到底時間がかかるし、まず無理だと思いますけど、部長のアドバイス通りにまずは単語を出来る範囲で……私を抜擢してくださった部長の顔に泥を塗らない程度を目指しています」

「それは偉いぞ。本山さんは結構根性がある。潮見部長もそのことを褒めていたけど、本当だったね」

「営業は根性が必要ですね。色々クレームも受けるし、結構大変でした」

「そうか。君は本当にいろんなことをやっているな。うちの会社でこれほど短期間でいろんなことをやっている正社員はひとりとしていない。英語が多少できなくて恥をかいても胸を張っていていいぞ」

「それで慰めてるつもりなんですか?」

「慰めてるんじゃなくて、応援しているんだよ。どんなアプリを使ってるの?見せて」

「あ、これです」

「ふーん。なるほどね……これだけだと、リスニング力がつかない。僕も使っていたのを教えてやる」

 嬉しそうに莉愛の手元から携帯を取り上げて検索し始めた。

 二人が入籍していることを社内で知っているのは、結局修二と祐樹の親兄弟だけだった。あとは人事関係者のみ。