「そうか……専務と社長にはまだ会わせてもらっていない?」

「はい……」

「まあ、付き合ってもいないのに入籍したんだし、君の実家のこともある。多くの人に誤解されている可能性はあるから、覚悟は必要だよ。でもそのうち皆もわかるさ。祐樹は君と知り合ってから本当に表情が変わってきた。この部署の人も、昔からいる人は祐樹の表情が昔よりずっと柔らかくなったのに気づいていると思う」

「そうですか」

「ま、アメリカで変わったと思っているだろうから、君がきっかけとはつゆほど思っていないだろうけどね」

「……」

 言い方がちょっと意地悪だ。修二さんってこういう人なのかもしれないと思った。

「祐樹が君をいずれ僕のポジション置きたいと言っていたからそのつもりで教えていく」

「はい、わかりました」

「基本的にこれからここのドアは閉めることにした。僕や君の話し声がするので、部長の邪魔になるからね」

「はい」

 入社して莉愛は皆からどこに住んでいるのかと色々と聞かれた。実家の場所を答えた。すると、以前から電車で見かけたことがあると言ってくる人もいて、やはり想像通りの展開になった。同居しなくてよかったとほっとした。

 週末彼の所に行ったとしても、日曜日の夜は実家へ戻ると莉愛は宣言した。月曜日に違うところから出勤するのは絶対よくない。ばれたら大変だ。

 最初は文句を言っていた祐樹だったが、自分の秘書同然だった修二をほぼ莉愛にとられてしまい、想像以上に何事も自分でこなさないといけなくなった。

 祐樹も忙しくなり、残業が多くなった。そのせいで彼自身も余裕がなくなり、平日は別居でよかったのかもしれないと思った。