部長室はガラスの壁になっている。フロアは丸見えだ。来客時などは見えないようにブラインドを降ろしていることもあるが、大抵は開いているという。

 部内の人も部長が見える。ジェスチャーで部長室へ合図したり、彼も人を手招きしている。

 莉愛は初めて来て驚いたが、この部署の女性は半数が既婚者だという。

 そのせいか、全体的に落ち着いた雰囲気だ。いわゆる黄色い笑い声がしない。

 単に、静かなのはそのせいだったのかもしれない。国内部門にいる時から敷居が高い部署と聞いていた。

 英語が飛び交う部署なんて、日本とは思えない。

 莉愛は部長室の扉の向こうの祐樹を見た。部長室で先ほどの男性と打ち合わせしながら話している。

 莉愛と祐樹は結婚していることは隠すことで同意した。この部署で知っているのは葛西だけだ。修二は部長室へ通じる扉を閉めた。

「本山さん。祐樹と入籍したそうだね。とりあえずおめでとう」

 修二は莉愛に微妙な笑顔で言った。とりあえずという言葉が彼の気持ちを表していた。

 やはり誰もが賛成はしかねる結婚なのだろう。

「あ、ありがとうございます……」

「指導へ入る前に祐樹の親友としてひとこと言っておく。あいつのこと、これからは僕の代わりによろしく頼むね。祐樹とは近いうちに会社も離れることになる。変な話、息子が一人立ちするような気持ちだよ」

「え?」

「あいつは家のことで色々あってね。何度か壊れかけた。話は聞いてる?」

 莉愛は壊れかけたと言う言葉を聞いて驚いた。

「いえ……壊れかけたってそんな……彼からはお母さまのことを少し聞いたくらいです。お墓参りに行きました」