翌日。

 夜のうちに実家へ戻った莉愛は、また懐かしいあの電車に乗って海外事業部へ初出勤した。

 莉愛は人生で一番緊張していた。見ている多くの眼が今までとは違う色の眼だったからだ。

 エリートが多いと聞いていたが、フロアも静かで今までの賑やかなフロアとは大違いだった。聞こえるのは英語がほとんどだ。

 場違いです、やっぱりやめたいですと言いたかった。しかしそれも無理だ。とうとう挨拶の時が来た。

「今日から正社員としてうちに入ってもらった本山さんだ。知っている人もいると思うが、国内の方で四年働いていた。彼女にはいずれやってほしいことがいくつかあり、こちらでスカウトしたんだ。英語の方はこれから勉強していくそうなので、皆応援してあげてくれ」

 部長である祐樹が皆に説明したあと、促すように莉愛を見た。莉愛は息を深く吸ってから、震える声で挨拶をした。

「今日からこちらでお世話になる本山莉愛です。ひと月ほど前まで、国内事業部のほうで四年間契約社員として営業で働いていました。英語はほとんどできないので勉強しながら頑張ります」

 言い終わると修二が付け加えた。

「彼女は僕の下につけて教えていくので、基本的に皆さんとはあまり関わらないと思います。そっちの部屋にいることが多いかな」

「本山さんはなんの担当になるんですか?」

 質問が出ると、部長の祐樹が答えた。

「修二の仕事を少しずつ手伝ってもらうつもりだ。君らとは最初あまり接点がないと思う」

「わかりました」

 皆はうなずいて席へ戻って行った。

 莉愛と修二は部長室と繋がった隣の部屋にいる。必要に応じてドアを閉めるらしいが、ほとんど開けたままだという。