「母は大人しくて、自分から何かをしたりあまりできないタイプだった。父の言うなりだったんだ。君は母とは全然違ったね。あのスケッチブックを見た時にわかった」

 莉愛はむっとして言った。

「どうせ、私は大人しくありませんよ」

 祐樹は莉愛の手を握った。

「僕はだからこそ君に惹かれたんだよ。スケッチブックには君の夢が入っていた。うちの会社でしたいことがあったと教えてくれただろう。そんな君に惹かれたんだ。君は……母じゃなくて、僕と似ていたんだ」

「え?」

「ゆっくり僕について知ってくれればいい。ただ、わかってほしいのは母と同じお茶をやっていた人だから君を選んだわけじゃないということだよ。勘違いしてほしくない。僕はそういう君だから好きなんだ。たまたまお茶屋の娘だった人を好きになっただけなんだ」

 莉愛は必死で何かを伝えようとしている祐樹を見た。祐樹が素になっている。彼が自分を本気で好きだと言っているとわかった。莉愛は心が温かくなった。彼には何か莉愛に伝えきれていないことがあるんだろう。でも徐々に教えようとしてくれている。

 莉愛はグラスを置くと、祐樹に一歩近づいた。

「わかった。でも、お母様がお茶をやっていたということや、お父様との出会いにお茶菓子があったというのは、私と祐樹さんの出会いに近いよね。やっぱり運命だったのかしら?」

「そう、運命だな。お互い直感があっただろ?」

「そうね。ゆっくり祐樹さんのことを教えてね。私もあなたに私のことをもっと知ってほしいな。出会う前の私達についてお互い徐々に話していければいいわね」

「そうだな」

 莉愛は茶道具を見た。