「そうだな。僕は兄より母に似ていると言われていた。佐伯の父は僕が佐伯家の顔立ちなのでそれもあって可愛がってくれたのかもな」

「そんなわけないじゃない」

 祐樹は棚を開けて見せた。大きな漆塗りのお茶セット用の箱があり、莉愛に差し出した。

「見てごらん」

 莉愛が蓋を持ち上げると、中には棗や茶筅、茶さじに袱紗、お茶碗が数種類、他にも茶道具が入っていた。そこはかとなく抹茶の香りがした。

「これ……」

「母が使っていたものだよ。佐伯の母が言っていただろう。母はお茶が大好きでね。本格的にお茶をたてる茶釜などはないけど、お盆に道具を色々乗せて実演してくれた。ここで抹茶をよく立てて飲んでいた」

「盆手前のことね。お母様はお茶を習っていたの?」

「若い時に習っていたらしい。千堂製菓は以前和菓子も扱っていたんだよ。父はお茶菓子がきっかけで母と親しくなったらしいんだ」

「そうだったのね……」

「君にもらったハンカチから懐かしい抹茶の香りがして驚いたんだ。すっかり忘れていたよ。駅で君の後姿を見ていた時から運命を予感させる何かがあった。僕は熱があったのに、直感でピンと来た。どこの誰かも知らないのに、いずれ君とは再会できるような気がしたんだ」

「その日のうちに再会するなんて私も正直びっくりした。しかも葛西君のお兄さんの上司で、うちの有名な海外事業部長だったなんて本当に驚いた」

「運命みたいだよな。僕は君と話して実はちょっと驚いた。想像以上に自分をきちんと持っていたからだ」

「ええ?!」