First Last Love


「ほんとによかった……。あのホテルで、健司になんて辛い事をさせてるんだろ、って思ってた。カフェ出てからは『もういいよ』って伝えてたんだよね。でも、しゃくりあげてるのが止まらなくて言葉になってなかった。前に健司が同じ方法でわたしの本心を引き出したから、勇気を出したのに、自信なんて砕け散ってたもん」

「いや……。俺、どう考えても態度でダダ漏れだったじゃん」

「わかんないよ、わたしだっていっぱいいっぱいだもん」

「一颯優しいな。自分があんな酷いこと言われて傷ついてんのに、俺の気持ちの心配するとか、どんだけなんだよ。恨めよ、もっと」

「でも好きだから。好きな人が苦しそうなのは、辛いでしょ?」

「そうだな。すごい辛かった。一颯を傷つけること。この世で一番傷つけたくない相手を俺自身が傷つけなくちゃならないって、経験ないくらいしんどかったよ」

「もう……。健司、その言葉も取り消せないよ? わたしからあんなに距離取りたがってたのに」

「わかったんだよ。だってあのエレベーターの中で、一颯を守れたのは、世界中で俺だけだ。誰が一颯と一緒に乗ってたとしてもできなかった事だ。この傷が俺に気づかせてくれた。この先も、一颯を一番守れて一颯の幸せを最優先に考えられる男は俺だろ?」

あの一瞬、俺は確かに二つの生命(いのち)のうち、一颯のものを意思を持って選び取った。

「最優先に考えるなら、もう離れるなんて言わないって約束して」

一颯が握っている俺の左手を開かせる。
俺は小指以外の指を軽く握った。

小指に一颯の小指が絡んでくる。

朝靄(あさもや)の二人きりの病室の中、人生で三度目の、一颯との指切りだった。