わたしは、指定したホテル一階のカフェで、健司を待っている。
会社の人が行かないような、都心から離れた場所にあるそれほど有名ではないリゾート地のホテルだ。
どうしても健司が会ってくれないのなら一ノ瀬社長が呼び出してくれることになっていた。
けれど、どうにかそうはならずにすみ、平日の今日、健司はわたしの指定した場所に足を運んでくれる。
会社は創業記念日で休みだ。
南国の花や枝ものをふんだんに生けた豪華な壺を中心に据えた広いロビー。
その一角をカフェとして使用している。
ロビーとカフェは低い観葉植物で遮っただけで、お茶を楽しむ数人がロビーからでもまばらに見える。
観葉植物のすぐ傍の席で、わたしはコーヒーカップを両手で囲み、そこに映る煌びやかな照明を見つめている。
心が震える。
心だけじゃなく、身体もはっきり震えている。
あの日、健司がああいうやり方でわたしの本心を引き出したのなら、わたしも同様の方法で彼に体当たりしてみれば、見えてくることもあるはずだと、覚悟を決めた。
健司の事を〝一度決めるとテコでも動かない〟と長年の友人の一ノ瀬社長がこぼしていたのだ。
卒倒するほど恥ずかしい事でも、思いつくことは何でもやらなければ、きっとあとで後悔する。

