「そうね。ここまで壮絶な人が実際に存在するのを見ちゃうと、自分の悩みがなんだった、って感じにはなります……よね」
「少しは……役……よかっ……」
「あたし、月城って名前、どうにも引っかかってたんですよ。最初にお兄の部屋で聞いた時から」
「…………」
「あれからめっちゃ考えて考えて、それで、思い出したんですよね」
彼氏に見切りをつけようとしている時期に、他のことをそこまで考えられるなら、夕凪ちゃんは大丈夫だ。
「お兄が確か中二? 中一? くらいの時さ、ラグビーで骨折して手術したことあるんですよ。その時、麻酔が切れて目を覚ます直前くらいに〝つきしろ〟って呟いた。あたし、結構ブラコンなんだよね。はっきり覚えてるもん」
夕凪ちゃんの言葉が、頭の中でちゃんとした意味を形成しない。意味がよくわからない。
隣でわたしを支えていた、たぶん夕凪ちゃんが大きく動いた。
「あっ、お兄、こっちこっち! どうしよう。月城さん、寝ちゃったよ」
「何度目だよ、このパターン」
わたしは揺られながら、潮の匂いと波の音が響く花畑の中を移動していった。

