First Last Love


 「……覚えてるよ。めちゃドキドキしたから。でもなんの約束したのかは忘れた」

「リレーだよ。男女混合リレー。わたしの走る順番が学年で一番速い女の子とぶつかっちゃってさ。絶対に抜かれるか大差をつけられるか、じゃない。落ち込んでたら、村上くんが『一生懸命走ることだけ考えてればいい。アンカーの俺が絶対に巻き返す。約束する』って言ってくれたの」

「うわ! すげえサムいな、俺」

「かっこよかったよ。わたしは案の定(あんのじょう)抜かされて、約束通り村上くんが抜き返してくれた」
「それも日記に書いてあったんだ?」

「うん。書いてあると思い出すもんだよね。おぼろだけど、そういうことがあった気がする」

 へへへっと小学生のような笑いが漏れる。月城も、同じように歯を見せて笑った。

 十四年越しに俺たちは二度目の指切りげんまんをした。

時間は猛烈な速さで、夕日に輝く誰もいないあの教室に飛ぶ。
好きな子との指切りに正面を向く事ができず、でも俯きたくもなくて、黒板に消し残ったチョークの粉をちらちらと意味もなく確認していた。

胸の高鳴りが相手に伝わりそうだと心配した事。
校庭から聞こえるボール遊びの音。
廊下での生徒の話し声。
六年二組の教室特有の匂いまでが、空間ごと移動したかのように鮮やかに蘇ってくる。

そしてまた、思いは二十六歳の俺が現在借りているこの部屋に戻ってくるのだ。