First Last Love


ここでも名刺か。交換じゃないけどな。

俺は身についた流れで両手を出してそれを受け取り、頭を下げる。

社会人も四年目、学生被りを入れれば六年目。

しかもいきなり副社長という名刺交換の多い役職についている事を、なんとなく誇らしく感じながら美容師さんに背を向けた。

歩きながら斜めがけカバンから財布を出し、そこに名刺を入れ込み、また元に戻す。スマホとイヤホンを取り出して英語学習の設定にする。

気の合う仲間とやりがいのある仕事をしている、今の環境への満足感が溢れる。

大学三年になってすぐ、ナツが「会社を作ろう」と言い出さなかったら、今、俺は普通に会社勤めをしていただろう。

二年目からは不思議なほど軌道に乗ったけれど、昼夜問わず仕事のことばかり考えて必死だったことに変わりはない。

ただ、あたりまえに就職していたら、今よりも楽しくて充実もし、やり甲斐を感じられていたとは考えにくい。

俺は数日後に控えたキャリア採用の面接に気持ちを切り替えた。

できるだけ優秀な人材を確保したい。大手外資ほどの報酬が出せない代わりに、うちの社、Canalsにはいくつものセールスポイントがある。それを限られた時間でどう効率よく彼らに見せられるかだ。

採用とは、こちら側が選んでいるだけじゃなく、こちら側も就職希望の人間に選ばれなければならない。

優秀な人材はいくつも会社を受けているはずだ。