「もうすぐ、春が来る…」
「…うん」
俺の呟きに、桐原も小さく答えて桜を見上げた。
「ほら、咲茉に会いに来たんでしょ?中入ろうよ」
しばらく桜を見つめていた桐原が俺に言う。
俺たちは最低限の言葉を交わしながら、咲茉のもとへと向かった。
*
咲茉の病室の前に立つと、いつも期待してしまう。
咲茉の明るい声が、笑顔が、今日こそ見れるんじゃないかって。
「冬紀くんに、美波ちゃん……」
と、聞きなれた声がした。
咲茉のお母さんだ。
「こんにちは!」
桐原がぺこりと頭を下げる。
それに続いて、俺も「こんにちは」と声を出す。


