私たちの恋風は、春を告げる


「もうすぐ、春が来る…」

「…うん」

俺の呟きに、桐原も小さく答えて桜を見上げた。

「ほら、咲茉に会いに来たんでしょ?中入ろうよ」

しばらく桜を見つめていた桐原が俺に言う。

俺たちは最低限の言葉を交わしながら、咲茉のもとへと向かった。



咲茉の病室の前に立つと、いつも期待してしまう。

咲茉の明るい声が、笑顔が、今日こそ見れるんじゃないかって。

「冬紀くんに、美波ちゃん……」
 
と、聞きなれた声がした。

咲茉のお母さんだ。

「こんにちは!」

桐原がぺこりと頭を下げる。

それに続いて、俺も「こんにちは」と声を出す。