お母さんは少し目に涙を浮かべて看護師さんの話を聞いていた。 「先生、どうかよろしくお願いします」 深々と頭を下げたお母さんに、先生は強い面持ちで答える。 「はい。私達も、死力を尽くします」 車椅子の持ち手が、お母さんから看護師さんへと変わる。 「…それじゃあ、行ってきます」 私は小さく微笑みながら、お母さんを振り返った。 「行ってらっしゃい!」 お母さんも涙をぬぐって、めいっぱいの笑顔。 その笑顔を、手術室への扉が閉まりきるまで私は見つめていた。