私たちの恋風は、春を告げる



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「じゃあお母さん、これから仕事行くけど大丈夫ね?」

「うん。何かあったら看護師さん呼ぶから」

仕事に向かうお母さんを見送って、いつも通りに教科書を広げる。

「…痛っ」

乾燥した唇が割れて、鉄のような血の味が口の中に広がる。

私はすっかり手離せなくなったリップクリームを取り出して、唇に塗った。

天気によって体調が優れないことも多いけど、今日はいつもより晴れた天気のせいか、どこか調子がいい。

希海ちゃんが退院して、10日。

希海ちゃんの声が響かない病室は、すごく寂しい空間になってしまった。