最強男子はあの子に甘い

 大きなため息とともに乙部さんが頭を抱えた。
 姫の提案は楽しそうだと思ったけど、屋上はそもそも彗くんのテリトリーである。
 乙部さんだって昼休みは“特別”立ち入りが許されているとのことだ。
 それに私たちを誘って彗くんのテリトリーへ押しかけるようなタイプではない。
 きっと彗くんだってびっくりするだろう。

「きのうのお疲れ様会でもしよ?って言えば、彗くんもわかってくれると思うけど?」
「それ、せめて榎本さんが誘ったってことにしませんか?」
「そっか、そのほうが確実に彗くん屋上に入れてくれるよね!」
「え……?」

 さっきまでいがみ合っていた二人は急に息ぴったり、意見が噛み合う。
 すると乙部さんと姫が私を見て、極上の微笑みを浮かべた。
 どちらも顔立ちが良すぎる上に気が強く、その笑顔は私から拒否権を奪うには十分だ。

「りょ、了解です……」

 きっとこの二人は、この笑顔ひとつでうまく世の中を渡っていける。
 そんな強さをも感じながら気づけば私は頷いていた。