最強男子はあの子に甘い

 玉子を買って家に帰ると、迎えてくれたお母さんは娘の心配もそこそこに、私の隣で丁寧に私の恋人として挨拶する彗くんをじいっと見つめていた。
 彼が私の帰宅が遅くなってしまったことに関しても、上手く説明し謝罪する。
 聞き終えたお母さんは彗くんの頭のてっぺんからつま先までじっくり見て、そのあとに私をちらっと見た。

「井原くんは、紗宇でいいの?」

 お母さんがそれはそれは真面目な声で彗くんに問う。
 いやまあ確かに、自分でも彗くんは私でいいのか?と疑問に思うことはあるけど、親に確認されるのは少々複雑だ。
 
「紗宇さんがいいです」

 微笑みを浮かべて、彗くんがはっきりとそう答えた。
 私は彗くんの隣で彼の愛に胸がきゅんとなりすぎて、玄関マットへと倒れ込みそうになる。
 しかしあいにく、今はマットの上にはお母さんがいる。
 
「料理も出来ないし、朝もなかなか起きないし……でも優しい子だから。井原くん、紗宇のことよろしくね」
「はい」

 もうこのまま私を連れ去って欲しい。
 それくらい、お母さんに対する彗くんの返事は真っすぐで、力強くて、かっこよかった。