最強男子はあの子に甘い

「どうだ?お前らのことが気に入らない人間に囲まれている気分は?」
「しょぼいな」

 呆れるように彗くんが呟くと、囲んでいるヤンキーたちは一斉に怒号と罵声をあびせて来る。
 動じない様子で姫は髪を手で梳きながら周囲を見渡し「ダサ……」と小さく零した。
 乙部さんは腕時計を確認してため息をつく。
 
「勝てると思ってんのか!?俺の合図ひとつでお前ら袋叩きだぞ!?」
「……出来るんですか?数足りてます?」
「何強がっちゃってんだよ優男ぉ!」

 乙部さんがこんな場面でも挑発仕返す余裕はどこから来るのだろう。
 私が不思議に思い彼を見つめると、冷静にもう一度、腕時計を確認して頷いた。

「まあ、こんなもんですね」

 そう言って、乙部さんが遠くを見つめて微笑む。
 すると罵声が飛び交っていた輪の外側から「ひっ……」といった悲鳴とともに、怯えの声が上がりはじめ、じわじわと私たちへの囲いが崩れていった。
 輪の中心にいたヤンキー四人が、何事かと慌てふためく。
 そして完全に囲いが崩れる頃に、私は初めて何が起こっているのかを知った。